日本薬理学雑誌
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特集:パスウェイ解析からネットワーク解析へ
スタチンのpleiotropic effectsとその分子機序
塩田 正之泉 康雄中尾 隆文岩尾 洋
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2006 年 128 巻 3 号 p. 161-166

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抄録

スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)はコレステロール合成経路の律速段階であるHMG-CoA還元酵素を阻害することにより血清コレステロールを低下させる作用を有する.スタチンの冠動脈イベントの発症や進行の抑制は大規模臨床試験によっても証明されているが,コレステロールの低下作用だけでは説明のつかない他の作用機序によって動脈硬化性疾患の発症進展を抑制していることを示す報告が相次いでいる.血管弛緩を誘導する遺伝子の誘導,血管収縮遺伝子の抑制に加えて,抗凝固活性を有する遺伝子の誘導,炎症性因子,血栓形成促進遺伝子の発現抑制を誘導する.このようにスタチンは,同時に多くの遺伝子発現に対して正と負の両面から制御をかけることで血行動態の改善方向に機能している.一方でeNOSを活性化することで血管新生を誘発し,血管の恒常性維持に積極的に関わることが示されている.それらスタチンのpleiotropic effectsの分子機序に対する研究が盛んに行われており,注目すべきものとしてPI3K/Akt経路の活性化とイソプレノイド産生低下による低分子量GTP結合タンパク質の活性抑制が挙げられる.近年,スタチンがin vitro,in vivoの血管新生において用量依存的に,二相性の効果をもつことが報告された.低用量のスタチンは血管新生を促進し,高用量のスタチンは逆にこれを阻害する.以上よりスタチンは当初の予想以上のポテンシャルを有しており,今後,各臓器での作用を系統的に解明し,至適投与量を検討することが重要となってくると考えられる.

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© 2006 公益社団法人 日本薬理学会
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