日本薬理学雑誌
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128 巻, 3 号
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特集:パスウェイ解析からネットワーク解析へ
  • 田中 利男, 岡 岳彦, 岩尾 洋
    2006 年 128 巻 3 号 p. 130-132
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/09/14
    ジャーナル フリー
    分子薬理学のパスウェイ解析は従来からの点と線の一次元ネットワーク(図1)から,最近になり薬理ゲノミクスのネットワーク解析(図2)が可能となり二次元ネットワークへとシフトしてきている.分子薬理学では,薬物と薬物受容体の分子間相互作用とそのシグナル伝達機構としての薬理パスウェイ解明を試みてきた.その中で薬物投与の適応症である疾患との相互作用こそが薬理作用そのものであり,薬理学の分野において解明すべき事柄であることから,ここに紹介する方法は非常に有用な実験補助手段となる.実例として循環器薬の作用機序におけるレニン・アンジオテンシン系阻害薬やHMG-CoA還元酵素阻害薬の薬理ゲノミクスネットワーク解析を試みた(図3).さらにネットワーク解析の将来展望についても触れた.
  • 山内 敏正, 門脇 孝
    2006 年 128 巻 3 号 p. 133-140
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/09/14
    ジャーナル フリー
    肥満・糖尿病・高血圧・高脂血症が重複する所謂メタボリックシンドロームは,我が国の死因の第一位を占める心血管疾患(心筋梗塞,脳梗塞等)の最大の原因となっている.この根本的病態は肥満による脂肪細胞肥大とそれに伴うインスリン抵抗性と考えられ,その原因の解明とそれに立脚した根本的な予防や治療法の確立が極めて重要である.先ず,欠損マウスを用いた解析により,転写因子PPAR(peroxisome proliferator-activated receptor)γとその共役因子であるCBP(CREB binding protein)が,高脂肪食による肥満・脂肪細胞肥大化・インスリン抵抗性の原因となっていることを示した.そしてPPARγ活性の部分的阻害薬が,抗肥満・抗糖尿病薬となりうることを示した.次に,脂肪萎縮・肥満では脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンが低下し,糖尿病・メタボリックシンドロームの原因となっており,その補充がAMPキナーゼとPPARαの活性化などを介し,これらの効果的な治療手段となることを明らかにした.また,動脈硬化のモデルであるapoE欠損マウスに,アディポネクチンをtransgeneとして発現させることにより,脂質蓄積の低減と抗炎症作用などにより,動脈硬化巣の形成が約60%に抑制されていることを見出した.そして特異的結合を指標にした発現クローニング法により,アディポネクチン受容体(AdipoR)1とAdipoR2の同定に世界で初めて成功した.siRNAを用いた実験などにより,AdipoR1とR2はそれぞれ,骨格筋に強く作用するC末側のglobular領域のアデイポネクチンおよび肝臓に強く作用する全長アデイポネクチンの受容体であり,AMPキナーゼ,およびPPARαの活性化などを介し,脂肪酸燃焼や糖取込み促進作用を伝達していることを示した.さらに肥満・2型糖尿病のモデルマウスの骨格筋・脂肪組織においては,AdipoR1・R2の発現量が低下し,アディポネクチン感受性の低下が存在することを示した.AdipoR1・R2の遺伝子欠損マウスが実際にインスリン抵抗性・耐糖能障害を示すこと,逆に肥満・2型糖尿病のモデルマウスにおいてAdipoR1・R2の発現量を増加させることによって,これらが改善されることを示している.最後に臨床応用を試みた.高活性型の高分子量アディポネクチンの測定法を共同で開発し,メタボリックシンドロームの診断法として有用であることを見出した.治療法としては,同定したアディポネクチン受容体の作動薬や増加薬の開発が,糖尿病・メタボリックシンドローム・動脈硬化症の根本的な治療法開発の道を切り開くものと強く期待される.PPARγ活性化薬が高活性型高分子量アディポネクチンを,PPARα活性化薬がアディポネクチン受容体を増加させることを,さらに野菜・果物に含まれるオスモチンがアディポネクチン受容体の作動薬となり得る事を見出している.
  • 高井 信治, 赤松 繁, 安田 鋭介, 小澤 修
    2006 年 128 巻 3 号 p. 141-145
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/09/14
    ジャーナル フリー
    種々のストレスの負荷により組織・細胞にストレスタンパク質(heat shock protein:HSP)と呼ばれる一群のタンパク質が誘導される.ストレスタンパク質は生体防御機構に中心的な役割を果たすと考えられている.HSP27,HSP20およびαBクリスタリンなどの低分子量ストレスタンパク質は非刺激時においても主として骨格筋に高く発現しており,リン酸化によりその機能が制御されることが知られている.一方,American Heart Association(AHA)による心肺蘇生法に関するガイドラインにおいて心肺蘇生に用いる薬としてバソプレシンが挙げられている.バソプレシンはV1受容体を介し,血管平滑筋に直接作用する.本稿では,バソプレシンによる血管平滑筋細胞における作用およびその細胞内情報伝達機構に関し,特にHSP27との関連において私共の知見を含め紹介する.
  • 吉栖 正典, 石澤 啓介, 井澤 有紀, 玉置 俊晃
    2006 年 128 巻 3 号 p. 147-151
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/09/14
    ジャーナル フリー
    近年,メタボリック症候群の疾患概念が確立され,本邦でもその診断基準が発表された.メタボリック症候群の根底にはインスリン抵抗性が存在するといわれるが,高血圧,動脈硬化などの血管病にインスリン抵抗性がどのように関っているかは未だ明らかではない.我々はこの数年,血管病の発症,進展に関わるインスリン抵抗性の細胞内情報伝達機構について研究を行なってきた.糖尿病モデル動物のOLETFラットを用いた検討では,アンジオテンシンII受容体拮抗薬の投与が末梢での糖利用臓器のインスリン抵抗性を改善させ,レニン-アンジオテンシン系のメタボリック症候群への関与が示唆された.培養血管平滑筋細胞を用いた細胞内情報伝達機構の検討では,アンジオテンシンII刺激によって活性化されるMAPキナーゼの一つ,ERK1/2がインスリン抵抗性の発現に関与していることが明らかになった.また,血管リモデリング進展過程のひとつである血管平滑筋細胞の遊走において,SrcチロシンキナーゼやCasアダプタータンパクが細胞内分子として重要な役割を果たしていることを見いだした.血管病におけるインスリン抵抗性に関わる標的分子の探求は,今後も増加することが予想されるメタボリックシンドローム治療のための創薬に有用な情報をもたらすことが期待される.
  • ―Rho-kinase阻害薬の糸球体保護効果とその分子機序―
    錦見 俊雄
    2006 年 128 巻 3 号 p. 153-159
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/09/14
    ジャーナル フリー
    最近の研究はsmall GTP結合タンパクの生理学的な重要性を示している.GTP結合タンパクの中でRhoは種々の細胞機能の分子スイッチとして働くことが知られている.Rhoのエフェクタータンパクの中でRho-kinaseがもっともよく研究され,その細胞内機能や細胞内情報伝達も広く研究されてきた.しかしながらin vivoの機能の情報については限られている.最近のRho-kinase特異的な阻害薬Y-27632やfasudilの開発によってin vitroとin vivoの両方におけるRho/Rho-kinase系の役割に対する理解は進歩をとげた.しかしながら,現時点において,腎疾患におけるRho/Rho-kinase系の役割を検討した研究は少ない.最近の研究ではRho-kinase阻害薬が尿管結紮による腎間質の線維化を有意に弱めたことを示している.このように,Rho/Rho-kinase系は腎間質の線維化の病因にある役割を果たしている.しかしながら高血圧性糸球体硬化におけるRho/Rho-kinase系の役割を検討した研究は非常に少ない.最近,我々ならびに他の研究者らはある種の高血圧モデルにおいてRho/Rho-kinase系が糸球体硬化の進展に一部関与していることを報告した.この総説において,我々はいくつかの高血圧モデルにおける腎糸球体硬化の進展におけるRho/Rho-kinase系の役割について述べる.これらの慢性のRho-kinase阻害は高血圧性糸球体硬化の新しい治療的アプローチになる可能性を示している.我々の結果はまた,Rho-kinase阻害薬の腎保護効果の機序は細胞外マトリックス遺伝子,マクロファージ/単球の浸潤,酸化ストレスなどの抑制と,eNOS遺伝子の亢進を一部介していることを示している.
  • 塩田 正之, 泉 康雄, 中尾 隆文, 岩尾 洋
    2006 年 128 巻 3 号 p. 161-166
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/09/14
    ジャーナル フリー
    スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)はコレステロール合成経路の律速段階であるHMG-CoA還元酵素を阻害することにより血清コレステロールを低下させる作用を有する.スタチンの冠動脈イベントの発症や進行の抑制は大規模臨床試験によっても証明されているが,コレステロールの低下作用だけでは説明のつかない他の作用機序によって動脈硬化性疾患の発症進展を抑制していることを示す報告が相次いでいる.血管弛緩を誘導する遺伝子の誘導,血管収縮遺伝子の抑制に加えて,抗凝固活性を有する遺伝子の誘導,炎症性因子,血栓形成促進遺伝子の発現抑制を誘導する.このようにスタチンは,同時に多くの遺伝子発現に対して正と負の両面から制御をかけることで血行動態の改善方向に機能している.一方でeNOSを活性化することで血管新生を誘発し,血管の恒常性維持に積極的に関わることが示されている.それらスタチンのpleiotropic effectsの分子機序に対する研究が盛んに行われており,注目すべきものとしてPI3K/Akt経路の活性化とイソプレノイド産生低下による低分子量GTP結合タンパク質の活性抑制が挙げられる.近年,スタチンがin vitro,in vivoの血管新生において用量依存的に,二相性の効果をもつことが報告された.低用量のスタチンは血管新生を促進し,高用量のスタチンは逆にこれを阻害する.以上よりスタチンは当初の予想以上のポテンシャルを有しており,今後,各臓器での作用を系統的に解明し,至適投与量を検討することが重要となってくると考えられる.
治療薬シリーズ(7)統合失調症
  • 山口 和政, 中谷 晶子, 村澤 寛泰, 藤村 京子, 巽 義美, 巽 壮生
    2006 年 128 巻 3 号 p. 169-172
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/09/14
    ジャーナル フリー
    統合失調症は「神経発達障害仮説」が提唱されている.非競合的NMDA受容体拮抗薬であるフェンシクリジン(PCP)を新生児期投与したICRマウスとSDラットでは,イボテン酸の生後6日腹側海馬注入ラットモデルと同様に12日齢時の脳切片で前頭前皮質,中隔,視床および小脳で神経細胞とS-100陽性アストロサイトのアポトーシスの発現がみられた.また,rostral migratory stream中では増生した幹細胞でGLASTの発現がみられた.一方,新生児期にPCPを投与したマウスにD-cycloserineを皮下投与したときには上記の病理変化はみられなかった.新生児期PCP投与マウスでは4-6週齢の行動観察でPPIの障害,PCP投与運動亢進の抑制およびモーリス水迷路学習能の障害がみられた.以上,この統合失調症モデルの利用は統合失調症の病因の解明,セリンおよびグリシンをターゲットとした新規治療薬の開発の一助となることが期待される.
  • 徳田 久美子
    2006 年 128 巻 3 号 p. 173-176
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/09/14
    ジャーナル フリー
    統合失調症治療薬(抗精神病薬)には,ほぼ全てに共通してドパミンD2受容体拮抗作用があり,ドパミン神経機能の異常に基づく病態モデルにおいて,各種の行動異常を抑制する.このようなD2受容体拮抗作用は,臨床における幻覚,妄想等の陽性症状改善に寄与すると考えられている.しかし,D2受容体に選択的な拮抗薬では,重篤な運動障害である錐体外路系副作用(EPS)や内分泌系副作用を誘発しやすい点が問題とされたため,最近では,EPSが軽減された非定型抗精神病薬による治療が主流となっている.非定型抗精神病薬の多くは,D2受容体拮抗作用に加えて,セロトニン5-HT2受容体拮抗作用を有し,感情鈍磨や自発性欠如等の陰性症状にも有効とされる.一方,抗精神病薬による過度の鎮静・血圧降下等の副作用には,アドレナリンα1受容体やヒスタミンH1受容体に対する拮抗作用が関与すると言われる.現在,NMDA受容体機能低下仮説に基づく非ドパミン系の薬剤や,認知機能改善に焦点を当てた薬剤も開発が進められており,今後の動向が注目される.
  • 高野 晶寛, 須原 哲也
    2006 年 128 巻 3 号 p. 177-183
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/09/14
    ジャーナル フリー
    PET(positron emission tomography)は脳内の代謝や神経伝達機能の変化を生体内で測定することが可能な分子イメージングの有力な研究方法であり,統合失調症をはじめとする精神神経疾患の病態解明や治療法の開発において重要な役割を果たすと考えられている.本稿では統合失調症の病態の解明および薬物療法の開発におけるPET研究について神経伝達機能に関するものを中心に概括した.統合失調症では前部帯状回や視床でのドパミンD2受容体の低下をはじめとする様々な神経伝達機能の変化がおきていることや抗精神病薬の臨床用量の設定や評価においてPETを用いて神経受容体の占有率を測定することが必要不可欠となってきている現状などについて言及した.
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