日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
特集:パッチクランプ
In vivoパッチクランプ記録法の実際と応用
─大脳皮質体性感覚野のシナプス応答─
吉村 恵土井 篤水野 雅晴古江 秀昌
著者情報
ジャーナル フリー

2006 年 128 巻 6 号 p. 381-387

詳細
抄録
脊髄後角細胞からのin vivoパッチクランプ記録法とその応用については,すでに「日薬理誌.124,111-118(2004)」に詳細をのべた.そこで,本稿では大脳皮質体性感覚野に焦点をあわせ,筆者らが開発した方法と実験結果について紹介したい.周知のように体性感覚情報は脊髄で修飾・統合をうけたのち,脊髄視床路や後索―内側毛帯路,または脊髄網様体視床路を通り,第一次体性感覚野に投射される.また,網様体視床路の一部は扁桃体や前帯状回,島などに送られ情動的な変化を誘起する.体性感覚野は視床からの入力をうけたのち,興奮性および抑制性の介在ニューロンを介してさまざまな処理を行っていると考えられるが,その結果はIV/V層に存在する錐体細胞で統合され,視床や感覚連合野,運動野,対側の感覚野および他の広い部位に投射される.細胞外記録やPETをもちいた研究から体性感覚野は頭頂葉中心後回(第一次体性感覚野:S1)とその外側部後方のシルビウス溝にそった第二次感覚野(SII)に投射される.そこで修飾・統合を受けたのち,側頭葉にある感覚連合野や辺縁系に伝えられ,さらに高度の処理をうける.PETを用いた実験から感覚情報は対側のSIに投射するだけでなく,同側のSIIにも投射することが知られている.また,SIには痛み刺激に応答する細胞が存在することも明らかにされ,感覚情報処理に関しさまざまなことが分かってきた.しかしながら,単一細胞のシナプスレベルにおける解析は細胞内記録法を用いて行われているが,安定した記録ができるのは大型の細胞に限られ,いまだ詳細な解析は行われていない.本稿で紹介するin vivoパッチクランプ記録法は,小型の細胞からも比較的安定した記録を長時間にわたって行うことが可能で,今後細胞外記録法などとあわせ,感覚情報が皮質レベルでどのような情報を受けているかを明らかにするための有益な方法になると思われる.
著者関連情報
© 2006 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top