日本薬理学雑誌
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特集:心血管病に関与する細胞内情報伝達系
PI3KクラスIIアイソフォームPI3K-C2αを介した血管平滑筋収縮における“Ca2+-induced Ca2+-sensitization”
多久和 陽
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2007 年 129 巻 4 号 p. 253-257

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抄録

細胞膜脱分極や受容体作動性アゴニスト刺激によりひき起こされる細胞内遊離Ca2+濃度([Ca2+]i)の上昇は,平滑筋収縮において必須の役割をはたしている.[Ca2+]iの上昇はカルモジュリン依存性リン酸化酵素ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)を活性化することにより,20 kDミオシン軽鎖(MLC)のリン酸化をひきおこし,収縮が惹起される.我々は,Ca2+がMLCKを活性化するのみならず,MLCを脱リン酸化するミオシン軽鎖ホスファターゼ(MLCP)を抑制することを見出した.従来,受容体作動性生理活性物質はG12/13を介してRho-Rhoキナーゼを活性化することによりMLCPを抑制し,効率よくMLCリン酸化および収縮を引き起こすと理解されていたが,新たに,受容体を介さないCa2+依存的なRho-Rhoキナーゼ-MLCP系の制御機構の存在を明らかにした.この発見は,Ca2+による平滑筋収縮活性化機構に関する従来のドグマに変更を迫り,Ca2+によるMLCK,MLCP二重制御を示している.Ca2+によるRho活性化のプロセスには,これまで高等動物における機能が不明であったホスホイノシチド3-キナーゼクラスIIアルファ酵素(PI3K-C2α)が介在している.すなわちCa2+はPI3K-C2αを介してRhoを活性化し,Rhoキナーゼ依存的にMLCPの調節サブユニットMYPT1およびMLCP阻害タンパクCPI-17をリン酸化することによりMLCPを抑制する.Ca2+依存的なRho活性化およびMLCP抑制は,細胞膜脱分極のみならず受容体作動性アゴニストによる血管平滑筋収縮においても,G12/13依存性機構とともに関与する.このCa2+-PI3K-C2α依存的な機序により,Ca2+は効率良くMLCリン酸化,従って収縮をひきおこす(Ca2+-induced Ca2+-sensitization).

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