抄録
ヘム合成系の代謝異常によりヘム合成中間体の異常蓄積が原因となって発症するポルフィリン症には,遺伝的あるいは後天的原因により起こるものが知られている.ポルフィリン症は,薬物代謝酵素チトクロムP450の誘導により著しく増悪化することが知られており,薬物治療の際は細心の注意を要する.ヘム合成はミトコンドリアと細胞質にまたがる8種類の酵素反応を経て行われ,第二酵素以降の欠損酵素によって合計8種類のポルフィリン症に分類される.ポルフィリン症は通常1酵素欠損型であるが,中には2種類の酵素欠損型のものもあり,原因の多様性が分子レベルで解明されるようになった.ヘム合成系第二酵素δ-aminolevulinate dehydratase(ALAD)の先天性欠損症であるALADポルフィリン症(ADP)は劣性遺伝性の稀な遺伝病であるが,異常遺伝子の保因者は人口の2%に及ぶと推定されており,重金属等の各種環境毒に対する遺伝的ハイリスク群を形成していると考えられ,テーラーメード医療における薬物治療の際,考慮すべき因子である.一方,優性遺伝するタイプのポルフィリン症においては,原因酵素の分子異常が必ずしも発症に結びつかないことが知られており,付加要因の関与が示唆される.本稿では,筆者らが遺伝子解析したADPをはじめとするポルフィリン症の分子異常について総説し,薬物投与をはじめとする発症の引き金となる因子の多様性を紹介し,治療薬物を選択する上での留意点について解説する.