ヒトにおいて血管内皮機能は,アセチルコリンを前腕の動脈に注入し,前腕血流量の変化をプレシスモグラフにより測定することによって評価される.現時点では,ヒト内皮機能測定のgolden standardである.内皮非依存性の拡張は主としてニトロプルシッドの動注による前腕血流の変化を測定して評価する.この方法はFurchgotらの論文,すなわち「アセチルコリンは内皮細胞の存在下でEDRFを遊離し血管を拡張する」に基づいている.NOS阻害薬であるL-NMMAの併用によりNO依存性血管拡張も評価可能であるが,L-NMMAにより抑制されない部分の血管拡張作用のメカニズムはヒトではまだ明らかではない.高血圧,高脂血症,糖尿病患者など心血管危険因子を有する患者で反応の低下が報告されている.またアセチルコリンの反応の一部は薬理学的な刺激によるNO産生を反映するが,L-NMMA自身による血管収縮作用は,NOの基礎的産生を間接的に表すとされ,インスリン感受性との相関が報告されている.さまざまな薬剤の内皮機能におよぼす影響が検討されているが,アセチルコリン血管拡張作用にはさまざまなconfounding factorが存在し,結果の解釈は容易ではない.機能的バイオマーカーとして,どちらかと言えば薬剤の比較的急性の効果を評価するヒトでの薬理実験に適している.FMDは超音波で阻血解除後の血流増加による血管拡張を測定し,その変化率を内皮機能として評価する方法である.この方法は侵襲がない利点があり,疫学研究にも採用されているが,再現性の問題,方法の多様性(最近まで標準化されていなかった),用量反応曲線を描けないこと(一点での反応),データ解釈の難しさ等解決すべき問題は多い.