日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
特集 心房細動の薬物・非薬物療法の現状と将来展望
心房細動のダウンストリームアプローチ:新たな心房細動治療薬とその標的分子
山下 徹
著者情報
ジャーナル フリー

2010 年 135 巻 2 号 p. 62-65

詳細
抄録

心房細動は臨床的に最も遭遇の機会が多い不整脈とされ,心原性脳塞栓症発症の独立した危険因子である.そのほか患者への不利益も多く,積極的な治療と管理を必要とする疾患と理解されている.本疾患は,加齢に伴い指数関数的に有病率が増加する疾患であり,高齢化社会の到来に伴いますます患者数増加が見込まれる.現在,種々の抗不整脈薬が臨床で使用されているが,催不整脈や心機能低下を引き起こす薬剤が多く,臨床上の課題と認識されている.そのような状況の下,心房だけに特異的に発現する標的分子をターゲットにした新しいタイプの抗不整脈薬の研究開発が進められている.1つの期待されるターゲットは,心房の再分極相にかかわっている超高速活性化遅延整流K+電流(IKur)であり,もう1つの期待されるターゲットは,心房の再分極相および静止電位相の調節に重要な役割を果たしているアセチルコリン感受性K+電流(IKACh)である.各イオンチャネル電流をつかさどるチャネルタンパク質は,心臓において心房だけに発現しており,心室には発現していない.そして,それぞれのイオンチャネル電流が活性化された時,心房細動が発症すること,心房細動病態の維持にかかわる興奮波前面のリエントリーの不整脈基質が構築されることが明らかにされている.そのようなことから,IKurあるいはIKACh阻害作用を有する新しい化合物は,心房細動治療の進歩に大きく貢献すると考えられる.心房選択的な抗不整脈薬の出現は,ダウンストリームアプローチを抜本的に変革することになるであろう.

著者関連情報
© 2010 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top