日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
パニツムマブ(ベクティビックス®点滴静注100 mg)の薬理学的特徴および臨床試験成績
松平 忠弘朝日 第輔梁 幾勇網干 正幸
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2011 年 137 巻 1 号 p. 31-41

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抄録

パニツムマブ(ベクティビックス®)は,米国Amgen社で開発された,EGFR(上皮細胞増殖因子受容体)を標的とするヒト型IgG2モノクローナル抗体であり,ヒトEGFRの細胞外ドメインに高い親和性で,特異的に結合する.この結果,EGF,TGF-αなどの内因性リガンドとEGFRとの結合を競合的に阻害することで,リガンドによる受容体のリン酸化,受容体チロシンキナーゼの作用およびシグナル伝達を阻害し,細胞増殖阻害,アポトーシスの誘導,ならびにIL-8およびVEGFなどの血管新生因子産生のダウンレギュレーションを誘導する.パニツムマブは,in vitro試験において,EGFRを発現する様々な腫瘍細胞株に対して用量依存的に増殖阻害作用を示した.またin vivo試験では,ヒト腫瘍細胞(ヒト結腸腫瘍由来HT29,DLD-1など)を移植したヌードマウスの腫瘍増殖を単独投与で,かつ用量依存的に抑制し,さらには,イリノテカンなどの化学療法または分子標的治療薬との併用投与によって相加的抗腫瘍効果を示した.臨床試験では,パニツムマブはKRAS遺伝子野生型を有する転移性結腸・直腸癌患者に対して,ファーストラインからサードラインまでの治療に有効性および安全性が確認された.一方,KRAS遺伝子変異型を有する患者群ではその有効性は認められなかった.これらの結果を受け,本邦では,2010年4月に「KRAS遺伝子野生型の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」を効能・効果として承認された.現在,パニツムマブのさらなる有効性予測へ向けて,KRAS以外に,BRAFをはじめとする新たなバイオマーカーの探索が進められており,結腸・直腸癌患者に対する臨床治療の個別化を進める上で今後重要な知見が得られることが期待されている.

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