日本薬理学雑誌
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総説
1型アドレノメデュリン受容体複合体のユニークな分子機構と循環制御
桑迫 健二北村 和雄永田 さやか加藤 丈司
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2012 年 140 巻 1 号 p. 8-13

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抄録
アドレノメデュリン(AM)は内因性降圧ペプチドであり,広範な体内分布を反映して多彩な生理作用(臓器保護作用)を発揮する.中でも抗酸化ストレス,抗炎症,抗動脈硬化,心血管リモデリング抑制,血管・リンパ管新生は強力であり,肺高血圧や心不全,心筋梗塞,閉塞性動脈硬化症,二次性リンパ浮腫における治療の実用化が期待されている.その重要な役割を担っているのが1型AM(AM1)受容体である.AM1受容体は,1回膜貫通型の受容体活性調節タンパク質2(RAMP2)が7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体(GPCR)のカルシトニン受容体様受容体(CLR)に1:1で作用することにより形成される.RAMP2はシャペロンとしてCLRを小胞体から細胞膜に輸送し,AMの特異性を規定している.CLR/RAMP3複合体(AM2受容体)もAM受容体として機能するが,AM1受容体よりAMの特異性は低い.AM,CLR,RAMP2のいずれか1つの遺伝子が完全に欠損したマウスは胎生致死となり,血管・リンパ管の形成不全が顕著にみられる.一方,RAMP3遺伝子が完全に欠損しても正常に生まれ,心血管系の形態的異常もみられない.総じて,成体ラットの心血管系でのRAMP2の遺伝子発現はRAMP3より強い.ヒトAM1受容体において,CLRの細胞内C末端領域はAMによるcAMP産生と細胞内移行(インターナリゼーション)に不可欠であり,CLRの細胞外第3ループはAM受容体によるGタンパク質の活性化に重要である.ごく最近,ヒトCLRの細胞外N末端領域(ECD)とヒトRAMP2のECDの1:1複合体の結晶構造が解明され,それらのECDでのAM結合に重要なアミノ酸残基も特定された.このように,AMとAM1受容体は循環器疾患の新規治療薬の重要な標的分子であり,非ペプチド性低分子アゴニストを含めた治療薬の開発が望まれる.
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© 2012 公益社団法人 日本薬理学会
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