日本薬理学雑誌
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140 巻, 1 号
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受賞講演総説
  • 檜井 栄一
    2012 年 140 巻 1 号 p. 3-7
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    地球上の生物が生命活動を維持するうえにおいて,骨格系の適切な形態形成および機能維持は必須であるが,その骨格系の支持に重要な役割を担う骨格系細胞群は,主に骨芽細胞,破骨細胞および軟骨細胞である.骨軟骨代謝調節機構およびその障害に基づく病態に有効な治療法を開発するためには,これら個々の細胞の分化および機能に関わる調節因子や制御機構に関する解析を進めることが必要であると考えられる.そこで著者らは,軟骨細胞,骨芽細胞および破骨細胞を中心とした骨格系細胞群について,細胞外シグナルに対する応答性を網羅的かつ統合的に分子薬理学的手法を用いて解析を行った.その結果,(1)内分泌シグナルによる時計遺伝子を介した軟骨細胞機能調節機構,(2)酸化ストレスシグナル応答性転写制御因子による骨軟骨細胞機能調節機構,(3)神経分泌/自己分泌シグナルによる骨軟骨組織の機能調節機構,という骨関節組織にとって全く新しい3種の分子基盤を世界に先駆けて提唱した.すなわち,骨軟骨代謝性疾患に対する新規創薬標的分子として,「内分泌シグナル応答性時計遺伝子」,「酸化ストレスシグナル応答性転写制御因子」および「神経分泌/自己分泌シグナル応答性神経性アミノ酸シグナル分子」を見出した.現在日本における骨粗鬆症患者は1,000万人を超えると推定されており,また変形性関節症患者および関節リウマチ患者を合わせると潜在的患者数で約3,000万人と推定されている.これら骨軟骨代謝性疾患に対する効果的な治療法の確立および治療薬の開発は本邦における差し迫った社会的緊急課題である.本研究により明らかとなった新規分子基盤により,骨軟骨代謝性疾患の効果的治療法確立および治療薬開発を指向する新規治療的戦略が展開されることを期待したい.
総説
  • 桑迫 健二, 北村 和雄, 永田 さやか, 加藤 丈司
    2012 年 140 巻 1 号 p. 8-13
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    アドレノメデュリン(AM)は内因性降圧ペプチドであり,広範な体内分布を反映して多彩な生理作用(臓器保護作用)を発揮する.中でも抗酸化ストレス,抗炎症,抗動脈硬化,心血管リモデリング抑制,血管・リンパ管新生は強力であり,肺高血圧や心不全,心筋梗塞,閉塞性動脈硬化症,二次性リンパ浮腫における治療の実用化が期待されている.その重要な役割を担っているのが1型AM(AM1)受容体である.AM1受容体は,1回膜貫通型の受容体活性調節タンパク質2(RAMP2)が7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体(GPCR)のカルシトニン受容体様受容体(CLR)に1:1で作用することにより形成される.RAMP2はシャペロンとしてCLRを小胞体から細胞膜に輸送し,AMの特異性を規定している.CLR/RAMP3複合体(AM2受容体)もAM受容体として機能するが,AM1受容体よりAMの特異性は低い.AM,CLR,RAMP2のいずれか1つの遺伝子が完全に欠損したマウスは胎生致死となり,血管・リンパ管の形成不全が顕著にみられる.一方,RAMP3遺伝子が完全に欠損しても正常に生まれ,心血管系の形態的異常もみられない.総じて,成体ラットの心血管系でのRAMP2の遺伝子発現はRAMP3より強い.ヒトAM1受容体において,CLRの細胞内C末端領域はAMによるcAMP産生と細胞内移行(インターナリゼーション)に不可欠であり,CLRの細胞外第3ループはAM受容体によるGタンパク質の活性化に重要である.ごく最近,ヒトCLRの細胞外N末端領域(ECD)とヒトRAMP2のECDの1:1複合体の結晶構造が解明され,それらのECDでのAM結合に重要なアミノ酸残基も特定された.このように,AMとAM1受容体は循環器疾患の新規治療薬の重要な標的分子であり,非ペプチド性低分子アゴニストを含めた治療薬の開発が望まれる.
  • 天野 大樹
    2012 年 140 巻 1 号 p. 14-18
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    本来中性な音などの条件刺激と,電気刺激などの嫌悪刺激(無条件刺激)を組み合わせて行う「恐怖条件付け学習」は,扁桃体機能の評価に広く用いられている.恐怖条件付けを獲得した動物に対して条件付け刺激を繰り返し与えると,有害刺激と条件付け刺激との関係が無くなったことを新規に学習する.この現象は恐怖の「消去学習」と呼ばれる.恐怖獲得は種々の精神疾患につながる.また消去学習が上手くいかないことは心身のストレス状態が長く持続することを意味する.そこで恐怖学習や消去学習の神経回路メカニズムを明らかにすることは,恐怖関連疾患に対する治療法を開発していく上で重要であると考えられる.本稿では恐怖獲得,想起および消去学習に関わる神経回路について述べる.
  • 小林 千晃, 高橋 直矢, 池谷 裕二
    2012 年 140 巻 1 号 p. 19-23
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    脳は多様な情報を柔軟に処理することで多彩な機能を発揮している.これまでに,個体レベルから単一細胞レベルに至る多くの研究がなされ,脳の機能の多様性がどう生じているのかという疑問が徐々に解消されてきた.しかし,こうした研究成果が蓄積されるとともに,従来のアプローチだけでは脳の多様性を説明することは不十分であることもわかってきた.神経回路を構成するニューロンは,互いにシナプスを介して結合することで情報を伝達している.近年,樹状突起に存在する多数のシナプスを通じて,単一のニューロンでも高度な情報処理を行うことが可能であることが示唆されている.たとえば,ニューロンは,シナプス活動の時空間パターンを非線形に積算することで,情報のフィルタリングや論理演算を行なっている.また,シナプス可塑性を通じて積極的に神経回路網を書き換えることで,より効率的に情報の多様性と安定性を実現している.したがって,シナプス活動を詳細に観察することは,ニューロンの作動原理を解明するうえで必須である.今回,我々は,機能的スパインカルシウム画像法の開発により,ニューロンの情報処理をシナプスレベルで解明することができるようになった.本稿では,同実験手技の開発に至る経緯とともに,今後の展望についてもふれる.
創薬シリーズ(6)臨床開発と育薬(14)(15)(16)
  • 浅田 和広
    2012 年 140 巻 1 号 p. 24-27
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    電子付録
    医薬品の添付文書の意義について,薬事法,PL法,GVP省令等の観点からその重要性を,また適正使用情報の観点から添付文書の記載要領に基づく使用上の注意,薬物動態,臨床成績,薬効薬理の項に記載する情報について,次いで添付文書作成・改訂時の手順,添付文書改訂時の情報提供について概説した.また添付文書の現在の課題と,添付文書にかかわる制度改正の動向について紹介した.
  • 矢野 宜昭
    2012 年 140 巻 1 号 p. 28-31
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    信頼性保証が広義の品質保証であること,ならびに品質,品質保証および品質保証の手法を概説した.適合性調査は,申請資料の規則適合性評価と捉え,品質保証との関係を論じた.
  • 神崎 充
    2012 年 140 巻 1 号 p. 32-35
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    医薬品はリスクとベネフィットのバランスの上に成り立っており,品質が確保され,有効性と安全性のバランスを確認した情報が付加されて,はじめて医療に役立てられる.製薬企業は,品質や安全管理情報を収集,検討し,その結果に基づき,絶えず品質改善や安全確保のために必要な措置を講じる必要がある.これらの業務を担う責任者として,企業に設置が義務づけられているのが総括製造販売責任者,品質保証責任者および安全管理責任者のいわゆる製造販売業三役である.わが国の薬事法は,過去の薬害を教訓として様々な制度が導入されてきたが,製造販売業三役の制度もその一つで,製品の市場への責任の明確化と製造販売後の安全対策を充実,強化するとともに,欧米との国際整合性を図ることを目的に導入された.医薬品の安全確保をより強化するためには,社内の組織や関係者の権限と責任の明確化,関係部署間の相互連携と牽制機能の円滑化,適正な情報の評価に基づく迅速な意思決定の仕組みを構築しておく必要がある.とりわけ総括製造販売責任者をはじめとする製造販売業三役は,その中心的な存在として,日頃から社内外のネットワークを整備し,製品の品質管理および安全管理の適正な運用に努めるとともに,有事の際は危機管理リーダーとしての職務遂行が求められる.このような対応を的確に行う上で,情報を製造販売業三役に一元的に集約・アーカイブすることが,国内外の様々なステークホルダーに対し,これまで以上に透明性のある説明責任を果たす上でも重要と考える.
新薬紹介総説
  • 鈴木 和彦, 内山 正彦, 松島 総一郎, 吉識 美香, 北脇 哲二
    2012 年 140 巻 1 号 p. 36-43
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    気管支拡張薬は慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)の薬物療法の中心であり,1日1回投与可能かつ速やかな作用発現を有する新しい吸入長時間作用性β2刺激薬(long-acting β2 agonist: LABA)が求められていた.インダカテロールマレイン酸塩(インダカテロール)は,疎水性に加えて固有活性の向上を目的とした合成展開を行うことにより得られたLABAであり,COPD患者に対する気管支拡張維持療法として,欧州では2009年11月,米国および日本では2011年7月に承認された.インダカテロールは初回投与の吸入後5分で臨床的に有意な気管支拡張効果を示し,その効果は24時間持続する.すなわちインダカテロールは即効性と持続性を兼ね備えた初の気管支拡張薬である.薬理学的検討において,インダカテロールのβ2受容体に対する固有活性はβ2刺激薬であるホルモテロールよりやや低く,サルメテロールやサルブタモールより高いことが示されている.インダカテロールの気管支拡張作用はホルモテロールと同程度であり,サルメテロールやサルブタモールより強い.また作用発現時間はサルブタモールやホルモテロールと同程度であり,サルメテロールより短いことも示されている.さらにモルモットやアカゲザルを用いた気道収縮実験において,インダカテロールはホルモテロール,サルブタモール,およびサルメテロールに比べて作用持続時間が長いことが明らかとなっている.中等症から重症のCOPD患者を対象とした国内および海外の臨床試験において,インダカテロールは臨床的に意味のある気管支拡張効果に加え,呼吸困難や健康関連QOLに関しても高い改善効果が示されており,現在上市されている吸入の気管支拡張薬と比べて同等以上であった.以上より,インダカテロールは1日1回投与が可能な新規吸入LABAとして,COPD治療における新たな選択肢となることが期待される.
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