日本薬理学雑誌
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特集 薬理学領域における磁気共鳴画像法の可能性
高速電子常磁性共鳴イメージングによる3次元レドックス計測
平田 拓
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2012 年 140 巻 4 号 p. 146-150

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抄録

不対電子のエネルギー吸収を特異的に検出することができる電子常磁性共鳴(EPR)分光(電子スピン共鳴,ESRとも呼ばれる)は,フリーラジカル分子の研究において強力な計測手法となっている.EPR分光は,核磁気共鳴(NMR)とは兄弟関係にある磁気共鳴分光法であり,NMRイメージング(核スピンの可視化)同様に電子スピンの分布を可視化するイメージング法も30年来研究されてきた.近年になり,短時間で電子スピンの3次元空間分布を計測する技術が開発された.本稿では,高速EPRイメージングを用いて,生体内の酸化還元状態を可視化する,レドックス計測について紹介する.電子スピンの緩和時間は,ナノ秒からマイクロ秒のオーダーであり,NMRと同様のパルス法による計測は容易ではない.特に,生体を対象とする低周波・低磁場のEPR計測では,連続波を用いた計測が主に用いられている.高速に磁場を掃引するEPRイメージング装置の開発により,生体内で寿命が短いフリーラジカル種の検出,測定が可能になった.また,ニトロキシルラジカルの寿命は溶液または生体中の還元作用の強さを反映するため,ニトロキシルラジカルの信号の消失速度を測定することにより,酸化還元状態(レドックス)をマッピングする方法を説明する.通常,3次元画像計測は長い計測時間が必要とされ,生体内でのレドックスマップを得ることは容易ではなかったが,計測技術の進歩により新しい生体計測への応用も可能になった.

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© 2012 公益社団法人 日本薬理学会
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