日本薬理学雑誌
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140 巻, 4 号
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特集 薬理学領域における磁気共鳴画像法の可能性
  • 平田 拓
    2012 年 140 巻 4 号 p. 146-150
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/10
    ジャーナル フリー
    不対電子のエネルギー吸収を特異的に検出することができる電子常磁性共鳴(EPR)分光(電子スピン共鳴,ESRとも呼ばれる)は,フリーラジカル分子の研究において強力な計測手法となっている.EPR分光は,核磁気共鳴(NMR)とは兄弟関係にある磁気共鳴分光法であり,NMRイメージング(核スピンの可視化)同様に電子スピンの分布を可視化するイメージング法も30年来研究されてきた.近年になり,短時間で電子スピンの3次元空間分布を計測する技術が開発された.本稿では,高速EPRイメージングを用いて,生体内の酸化還元状態を可視化する,レドックス計測について紹介する.電子スピンの緩和時間は,ナノ秒からマイクロ秒のオーダーであり,NMRと同様のパルス法による計測は容易ではない.特に,生体を対象とする低周波・低磁場のEPR計測では,連続波を用いた計測が主に用いられている.高速に磁場を掃引するEPRイメージング装置の開発により,生体内で寿命が短いフリーラジカル種の検出,測定が可能になった.また,ニトロキシルラジカルの寿命は溶液または生体中の還元作用の強さを反映するため,ニトロキシルラジカルの信号の消失速度を測定することにより,酸化還元状態(レドックス)をマッピングする方法を説明する.通常,3次元画像計測は長い計測時間が必要とされ,生体内でのレドックスマップを得ることは容易ではなかったが,計測技術の進歩により新しい生体計測への応用も可能になった.
  • 伊藤 康一
    2012 年 140 巻 4 号 p. 151-155
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/10
    ジャーナル フリー
    磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging: MRI)の一番の利点は,非侵襲的に一個体の脳内変化を経時的に観察でき,動物の状態や行動を対応させて評価検討できることである.また,従来の研究手法に用いられる動物数に比べ減少させることが可能である点も動物愛護の面から評価される.MRIは様々な撮像法により,脳の病態を捕らえることが可能になってきた.本稿では脳神経疾患(てんかん,脳内出血,髄膜炎)における脳関門(brain barrier: BB)の病態変化についてin vivoモデル動物のMRI評価方法を紹介する.BBは,一般的に脳の恒常性維持また外界からの攻撃から守る重要な機能を有し,血液脳関門(blood-brain barrier: BBB),血液脳脊髄液関門(blood-cerebrospinal fluid barrier: BCSFB),血液クモ膜関門(blood-arachnoid barrier: BAB)などに分類されている.最近,脳神経疾患においてBB機能不全が疾患の病態生理変化に深く関わっていることが注目されている.本稿では,てんかん,脳内出血,髄膜炎モデル動物を用いて,BBの状態を研究する上でのMRIの有用性を示した.てんかん発作とBBB透過性亢進や破綻の時空間的検討が可能となる.脳内出血における出血,血腫また脳浮腫さらに運動機能障害などを合わせて経時的に検討するためにはMRIは大変有効な手法である.また,炎症疾患である髄膜炎は,クモ膜下腔という微細部位を高磁場MRIで観察することができる.このように,基礎研究においてMRIと疾患モデル動物を用いた研究は,形態学的研究のみならず病態生理学的研究,各種造影剤を用いた分子イメージング,また薬理学的解析など応用範囲は広い.今後多くの研究者がMRIを利用して脳のin vivo研究を発展させていただきたい.
  • 藤井 博匡, 江本 美穂
    2012 年 140 巻 4 号 p. 156-160
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/10
    ジャーナル フリー
    がんや炎症性疾患など様々な疾病において多量の活性酸素種が生成され,同時に抗酸化物質の減少や抗酸化性酵素の活性低下について報告されてきた.このような病態について体内の抗酸化特性の変動を定量的に解析し,酸化ストレス状態を非侵襲的にイメージングとして視覚化する画像技術は,病態の解析だけにとどまらず,新たな診断法や医薬品の開発に繋がる,非常に重要な手法と考えられている.近年,in vivo状態での活性酸素種の影響を非侵襲的に解析するため,常磁性物質であるナイトロオキシド化合物が酸化還元マーカー(レドックスマーカー)としてEPR(electron paramagnetic resonance)やMRI(magnetic resonance imaging)において活用され始めた.私たちは,EPRイメージングを従来より高速に稼働しうるシステムの構築に成功し,1分以内という短時間で3次元EPRイメージング画像を撮像できるシステムを作り上げた.ナイトロオキシド化合物をレドックス感受性イメージング剤として用いることで,動物体内でのレドックス状態・酸化ストレスの影響を非侵襲的に画像化することが可能となってきた.一方,ナイトロオキシド化合物はMRI法においてもレドックス感受性造影剤として働くため,ナイトロオキシド分子の体内分布やレドックス状態についてEPRイメージング法と同様に視覚化できるようになった.高速化されたEPRイメージング法とMRIの手法を同じように活用することで,MRIで撮像した解剖画像上にEPRから得たレドックス情報を画像として重ね合わせることができ,他の手法では得られない貴重な生体情報を提供できるようになった.本稿では,常磁性物質であるナイトロオキシドを仲立ちとして,EPR・MRI両手法を活用する研究の特色や利点について紹介する.
  • 石川 誠
    2012 年 140 巻 4 号 p. 161-165
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/10
    ジャーナル フリー
    磁気共鳴画像法(MRI)とMRスペクトロスコピー法(MRS)はヒトの病態診断のみならず病態モデル動物での薬効評価に応用されている.MRIは組織コントラストと空間分解能の高い非侵襲的な画像診断法である.MRIの高い組織コントラストは,組織における水のプロトンの物理的性質(密度,緩和時間,磁化率,拡散,流れ等)の違いによってもたらされ,この物理的性質を強調することで,多様な画像を提供し,さまざまな病態診断に貢献している.また,MRSは細胞の代謝の情報を提供する手法であり,1H-MRSは主に中枢疾患領域において利用されている.また,臨床と同じバイオマーカーで評価できるMRIはトランスレーショナルイメージングとして利用できる.本稿では磁気共鳴法の特徴を述べ,MRIと1H-MRSを用いた病態モデル動物での薬効評価と病態評価について紹介する.
実験技術
  • 中村 裕二, 安東 賢太郎, 杉山 篤
    2012 年 140 巻 4 号 p. 166-169
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/10
    ジャーナル フリー
    ランゲンドルフ灌流心実験法は19世紀末にドイツの生理学者Oscar Langendorffによって開発された実験法である.摘出した心臓の大動脈にカニューレを挿入して冠動脈から心臓を灌流する手法であり,実験操作の簡便さと心臓に対する薬物の直接作用を評価できることから薬理学的作用の評価法として長く用いられてきた.モルモットを具体例として我々の研究室で行っているランゲンドルフ灌流心の標本作製と測定手法について概説する.標本作製の手順であるが,まずモルモットをペントバルビタールナトリウムで麻酔し,ヘパリンを静注後,心臓を摘出する.摘出した心臓の大動脈にカニューレを挿入して冠動脈から心臓を灌流し,ランゲンドルフ標本を作製する.ランゲンドルフ灌流心では心電図,灌流圧,灌流量,左室圧,有効不応期,単相性活動電位の測定が可能である.左室圧は左室内に生理食塩液を満たしたバルーンを挿入して測定する.バルーンの容積を調節することにより収縮末期の左室容積を設定ができ,任意の前負荷状態における等容性収縮を評価することができる.さらに単相性活動電位を用いると,薬物の催不整脈作用をより詳細に評価することが可能である.ここでは一般的な測定項目に加えてより詳細な電気生理学的指標およびそれらの測定に際しての注意点を紹介する.
創薬シリーズ(6)臨床開発と育薬(21)(22)
  • 海老原 格
    2012 年 140 巻 4 号 p. 170-173
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/10
    ジャーナル フリー
    医薬品が登場する,患者さんがそれを用いる.いたって単純なことだが,実は重大な意味が込められている.「登場する」とは,「患者さんの苦しみを和らげたい」との製薬企業の希(おも)いを患者さんに伝えること,「用いる」とは患者さんがその希いを受取る,希いが伝わることではないかと考える.勿論仲介する人はいるが.「伝える—伝わる」が成立するとき医薬品は人類共有の財産となる.それが育薬だと思う.ただ医薬品にはメリットだけではなくデメリットがあることを忘れてはいけない.しかし,情報の力を借りることでデメリットを抑えメリットを十分に引き出すことができる.適正使用ということである.RAD-AR活動は,医薬品適正使用確保のために生み出されたものである.くすりの適正使用協議会は,RAD-AR活動を永年展開している.最近の動きを紹介するので,皆さん,ご参考にしていただければ幸甚である.
  • 川上 浩司
    2012 年 140 巻 4 号 p. 174-176
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/10
    ジャーナル フリー
    薬剤疫学は,医薬品等の研究開発段階において安全性を予測するモデル等の開発,臨床試験に関連する各種規制ガイドラインのあり方や制度に関する調査とシステム研究といったレギュラトリーサイエンス,市販後のファーマコビジランス,市販後のリスクマネジメントの考え方の確立と実施,そして社会福祉の中における医療における費用対効果研究といった様々なアクティビティを包括した新しい道が示されていく必要がある.また,先制医療の時代になると,病気にならないための薬剤介入の可能性の勘案も必要となる.医療,医薬品の安全性や有効性,経済性の評価は,今後多様化しつつ発展していくであろう.
新薬紹介総説
  • 金子 恵美, 和田 智之, 南川 洋子, 井上 優
    2012 年 140 巻 4 号 p. 177-182
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/10
    ジャーナル フリー
    アイファガン®点眼液0.1%(AIPHAGAN®)は,アドレナリンα2受容体作動薬であるブリモニジン酒石酸塩を主成分とした新規の緑内障・高眼圧症治療薬である.その眼圧下降効果は,房水産生の抑制およびぶどう膜強膜流出路を介した房水流出の促進という2つの機序に基づくと考えられている.このことからアイファガン®点眼液0.1%は,房水産生を抑制するアドレナリンβ受容体遮断薬(β遮断薬)や房水流出を促進するプロスタグランジン関連薬(PG関連薬)等との併用効果も期待できる.第III相臨床試験では,原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症患者でPG関連薬の併用におけるさらなる眼圧下降効果が,また52週間の長期投与試験でも安定した眼圧下降効果が示されている.承認時までに実施した臨床試験における副作用は,総症例444例中122例(27.5%)であった.主な副作用は結膜炎(アレルギー性結膜炎を含む)38例(8.6%),点状角膜炎30例(6.8%),眼瞼炎(アレルギー性眼瞼炎を含む)20例(4.5%)および結膜充血17例(3.8%)であった.なお,本剤では点眼剤の保存剤として本邦で初めて亜塩素酸ナトリウムを使用している.
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