日本薬理学雑誌
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特集 新規統合失調症治療薬創製のためのターゲットバリデーション戦略
『新たなメカニズムに立脚した薬剤の開発へ』 新たな病態モデルとしてのクプリゾン短期曝露マウスの解析
手塚 智章
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2013 年 142 巻 6 号 p. 276-279

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抄録

統合失調症は陽性症状,陰性症状および認知機能障害など特有の症状を示し,再発や再燃を繰り返す難治性の疾患である.既存の抗精神病薬は陽性症状には一定の改善効果を示すが,陰性症状や認知機能に対する効果はまだ不十分である.そのため,統合失調症治療薬はアンメット・メディカル・ニーズが高く,既存薬とは異なる新たなメカニズムに立脚した創薬が重要と考えられる.近年の画像解析技術の進展により,統合失調症患者の脳において,脱髄のような顕著な病変は認められないが,水分子の拡散異方性の低下といった白質の軽度な構造異常が検出された.白質を構成するミエリンは神経伝導速度を上げ,脳内の情報伝達に重要な役割を果たす.また,統合失調症患者では,ミクログリアやアストロサイトの活性化亢進や炎症性サイトカインの上昇が認められることから,炎症反応が亢進していると考えられる.サイトカインは細胞の増殖,分化および細胞死を調節する作用をもつことから,筆者らは統合失調症でみられる白質異常の成因の1つに,脳内炎症を設定した.この仮説に基づき,検証するツールとなり得る動物モデルとして,新たにクプリゾン短期曝露マウスを構築した.本マウスに対する神経化学的な解析から,本マウスでは脳内で顕著な病変は生じないが,炎症反応が亢進していることが示唆された.また,行動薬理学的な解析から,本マウスでは低用量の精神刺激剤に対する感受性の亢進や認知機能の低下が認められた.これらの結果から,本マウスは統合失調症の少なくとも一部の病態を反映していると考えられる.脳の高次機能が侵される精神疾患を対象とする場合,病態全体を忠実に反映する動物モデルの構築は難しいが,病態のある側面を捉える動物モデルの作製は可能である.病態仮説を設定し,仮説に基づく評価指標を吟味して,新たなメカニズムに立脚した薬剤の開発を進めることが重要と考える.

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