日本薬理学雑誌
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142 巻, 6 号
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特集 新規統合失調症治療薬創製のためのターゲットバリデーション戦略
  • 吉水 孝緒, Li-Huei Tsai
    2013 年 142 巻 6 号 p. 266-270
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/10
    ジャーナル フリー
    統合失調症や双極性障害をはじめとする精神疾患に対する既存の治療薬は,その効果や副作用の点で大きな課題を残している.疾患発症の分子メカニズムが未だ明らかになったとは言い難い本疾患領域においては,難治性や慢性の症状に対する新たな薬物治療の選択肢も今後しばらく拡がりそうにない.幾つかの精神疾患においては環境要因に加えて遺伝的な発症要因が認められているにもかかわらず,従来の連鎖解析という単一遺伝子疾患を対象にする解析手法では明確な原因分子を同定するには至っていない.こうした中,近年の目覚ましいシークエンス技術,アレイ技術の進歩を背景に,精神疾患を対象にした大規模なゲノムワイド解析が盛んに行われており,各疾患に関連するとされる一塩基多型(SNPs),コピー数多型(CNVs)といったゲノム上の多型が次々と報告されている.これら疾患に関連するリスク因子のターゲットバリデーションは治療薬創製の原点であり,とりわけゲノム解析などから得られた最新の知見をどのように創薬ターゲットの設定に繋げていくかは,新たなメカニズムに根ざした次世代治療薬を創出する上で鍵となる部分である.遺伝的多型をはじめとする疾患関連リスク因子を解析するためには様々なアプローチが考えられるが,我々は,「シャーレ上での病態の再現」を目指して,iPS細胞に代表されるリプログラミング技術を利用して研究を進めている.本稿では,精神疾患患者由来のiN細胞(直接誘導変換によって体細胞より作製した神経細胞)を用いて我々が得つつある研究成果を交えながら,精神疾患発症のリスク因子を研究するためのリプログラミング技術に関する最近の知見を紹介する.
  • 三宅 進一, 多神田 勝規, 松本 光之
    2013 年 142 巻 6 号 p. 271-275
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/10
    ジャーナル フリー
    統合失調症や双極性障害は陽性症状,認知機能障害,陰性症状を含む多様な症状によって特徴づけられる複雑な疾患であり,その顕著な症状により社会的営みが大きく阻害される.精神疾患の発症原因に関する分子メカニズムのほとんどは不明なままであるが,近年のヒト遺伝学研究の発展によりこれまでに一塩基多型(single nucleotide polymorphisms:SNPs)や染色体座コピー数多型(copy number variation:CNV)等に代表される多数のリスク因子が報告されている.我々はこれらリスク因子を反映もしくはリスク因子に起因するような情報伝達系異常を反映した遺伝子改変動物モデルを作製もしくは導入し,マウスの行動評価に加え遺伝子発現変動解析,生化学的解析,形態学的解析を実施することで複数の動物モデル間で共通に見られるエンドフェノタイプ(中間表現系)を見出す試みを実施している.これまでに複数の遺伝子改変精神疾患動物モデルで未成熟脳/immature dentate gyrus(iDG)フェノタイプが共通に生じることが報告されているが,我々は類似のフェノタイプが統合失調症/双極性障害患者死後脳の海馬dentate gyrusでも認められることを明らかにした.本稿ではiDGフェノタイプのバリデーションを例として,リスク因子を反映した動物モデル解析から病態生理学に基づいた次世代創薬アプローチの可能性について議論したい.
  • 手塚 智章
    2013 年 142 巻 6 号 p. 276-279
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/10
    ジャーナル フリー
    統合失調症は陽性症状,陰性症状および認知機能障害など特有の症状を示し,再発や再燃を繰り返す難治性の疾患である.既存の抗精神病薬は陽性症状には一定の改善効果を示すが,陰性症状や認知機能に対する効果はまだ不十分である.そのため,統合失調症治療薬はアンメット・メディカル・ニーズが高く,既存薬とは異なる新たなメカニズムに立脚した創薬が重要と考えられる.近年の画像解析技術の進展により,統合失調症患者の脳において,脱髄のような顕著な病変は認められないが,水分子の拡散異方性の低下といった白質の軽度な構造異常が検出された.白質を構成するミエリンは神経伝導速度を上げ,脳内の情報伝達に重要な役割を果たす.また,統合失調症患者では,ミクログリアやアストロサイトの活性化亢進や炎症性サイトカインの上昇が認められることから,炎症反応が亢進していると考えられる.サイトカインは細胞の増殖,分化および細胞死を調節する作用をもつことから,筆者らは統合失調症でみられる白質異常の成因の1つに,脳内炎症を設定した.この仮説に基づき,検証するツールとなり得る動物モデルとして,新たにクプリゾン短期曝露マウスを構築した.本マウスに対する神経化学的な解析から,本マウスでは脳内で顕著な病変は生じないが,炎症反応が亢進していることが示唆された.また,行動薬理学的な解析から,本マウスでは低用量の精神刺激剤に対する感受性の亢進や認知機能の低下が認められた.これらの結果から,本マウスは統合失調症の少なくとも一部の病態を反映していると考えられる.脳の高次機能が侵される精神疾患を対象とする場合,病態全体を忠実に反映する動物モデルの構築は難しいが,病態のある側面を捉える動物モデルの作製は可能である.病態仮説を設定し,仮説に基づく評価指標を吟味して,新たなメカニズムに立脚した薬剤の開発を進めることが重要と考える.
  • 前原 俊介
    2013 年 142 巻 6 号 p. 280-284
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/10
    ジャーナル フリー
    統合失調症は,思春期や青春期にその多くが発症する精神疾患であり,羅患率は総人口の約1%と比較的高いことが知られている.統合失調症の症状は多彩で一義的ではないものの,主症状として,幻覚,妄想などの陽性症状,感情鈍麻,意欲減退,社会的引きこもりなどの陰性症状および注意力低下,実行機能障害などの認知機能障害がある.既存の統合失調症治療薬は,主としてD2受容体および5-HT2A受容体に対する拮抗作用を有しており,陽性症状には奏功するものの,陰性症状や認知機能障害に対する改善作用は未だに十分ではなく,依然として統合失調症患者の約30%は薬剤抵抗性を示している.また,錐体外路症状や高プロラクチン血症,体重増加などの副作用を発現することなどから,新しいメカニズムを有する統合失調症治療薬の開発の必要性が強く唱えられている.その一つとして,主に前頭皮質のグルタミン酸神経伝達異常が原因であるといういわゆるグルタミン酸仮説(NMDA受容体機能低下仮説)に基づく創薬が活発化している.現在,グリシントランスポーター1阻害薬や代謝型グルタミン酸受容体2/3型(mGluR2/3)アゴニスト,mGluR2ポジティブアロステリックモジュレーターなどが臨床試験中である.我々は,新規ターゲットとして代謝型グルタミン酸受容体1型(mGluR1)に着目し,その拮抗薬の創薬を進めてきた.本稿では,新規mGluR1拮抗薬の特徴とその統合失調症動物モデルでの有効性および副作用に関する評価および受容体占有率との関係を中心に概説し,mGluR1拮抗薬の新規統合失調症治療薬としての可能性について考察する.
総説
  • 勝山 真人
    2013 年 142 巻 6 号 p. 285-290
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/10
    ジャーナル フリー
    NADPHオキシダーゼは食細胞において同定されたスーパーオキシド(O2)産生酵素であり,感染微生物の殺菌に重要な役割を果たす.O2は食細胞以外でもNADPH依存的に産生されるが,この十数年の間に,非食細胞型NADPHオキシダーゼが相次いで同定された.その触媒サブユニットNOXには,NOX1からNOX5までの5種類と,関連酵素であるDUOX1とDUOX2の計7種類のアイソフォームが存在する.各アイソフォームはそれぞれ活性発現に必要な共役サブユニットや組織分布が異なっており,遺伝子改変マウスを用いた解析の結果,それぞれ独自の生理機能をもつことが明らかとなりつつある.本総説では主に各NOXアイソフォームの発現調節機構について紹介し,薬物治療への応用の可能性についても言及する.
  • 田中 光一
    2013 年 142 巻 6 号 p. 291-296
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/10
    ジャーナル フリー
    グルタミン酸は,中枢神経系において主要な興奮性神経伝達物質であり,記憶・学習などの脳高次機能に重要な役割を果たしている.しかし,その機能的な重要性の反面,興奮毒性という概念で表されるように,過剰なグルタミン酸は神経細胞障害作用を持ち,主要な精神疾患に関与すると考えられている.我々は,グルタミン酸の細胞外濃度を制御するグリア型グルタミン酸トランスポーターの機能を阻害したマウスを作製し,そのマウスに,自閉症や統合失調症で観察される脳形成異常と似た脳発達障害や社会行動の障害,強迫性行動,統合失調症様の行動異常が観察されることを発見した.さらに,統合失調症,うつ病,強迫性障害,自閉症など主要な精神疾患において,グリア型グルタミン酸トランスポーターの異常が報告されている.これらの結果から,我々は,主要な精神疾患の中に,グルタミン酸トランスポーターの異常による興奮性と抑制性のアンバランスが原因で発症する患者が一定の割合存在し,「グルタミン酸トランスポーター機能異常症候群」として分類できると考えている.グリア型グルタミン酸トランスポーターを活性化する化合物は,新しい抗精神疾患薬として有用であると期待される.
創薬シリーズ(7)オープンイノベーション(10)
新薬紹介総説
  • 大庭 澄明, 今田 和則, 友光 将人, 竹谷 仁吏, 金子 大樹
    2013 年 142 巻 6 号 p. 304-314
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/10
    ジャーナル フリー
    フィルグラスチムは,遺伝子組換えヒト顆粒球コロニー形成刺激因子であり,好中球前駆細胞から成熟好中球への分化・増殖の促進,骨髄からの成熟好中球の放出促進による末梢血中の好中球数増加および好中球機能の亢進,造血幹細胞の末梢血への動員等の作用を有し,がん化学療法による好中球減少等の治療に利用される生理活性タンパク質である.持田製薬株式会社および富士製薬工業株式会社がそれぞれ販売を開始したフィルグラスチムBS注シリンジ「モチダ」およびフィルグラスチムBS注シリンジ「F」は, グラン®(協和発酵キリン株式会社)を先行品とするバイオ後続品であり,それらの有効成分は,グラン®の有効成分であるフィルグラスチム(遺伝子組換え)と同一の一次構造を有し,グラン®の1番目のバイオ後続品の有効成分を意味するフィルグラスチム(遺伝子組換え)[フィルグラスチム後続1]である.当該フィルグラスチムバイオ後続品の開発においては,「バイオ後続品の品質・安全性・有効性確保のための指針」および「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価」に準拠して,品質特性,非臨床試験(薬理試験と毒性試験),および臨床試験を実施した.フィルグラスチムBS注シリンジ「モチダ」/「F」の品質特性は,先行品と同等/同質であった.また,非臨床試験および臨床薬理試験において,好中球数増加作用,末梢血中への造血幹細胞の動員作用および薬物動態,安全性は,先行品と同等/同質であった.さらに,乳がん患者を対象とした第III相試験において,有効性・安全性が確認された.持田製薬株式会社と富士製薬工業株式会社は,これらの成績をもとに本邦でフィルグラスチムBS注シリンジ「モチダ」/「F」の製造販売承認申請を行い,2012年11月に先行品と同じ効能・効果で承認を取得,2013年5月に薬価収載され,販売を開始した.今後,フィルグラスチムBS注シリンジ「モチダ」/「F」は,医療現場において広く使用されることが期待される.
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