日本薬理学雑誌
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総説
『グルタミン酸と精神疾患:モノアミンを超えて』 グルタミン酸トランスポーターと精神疾患
田中 光一
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2013 年 142 巻 6 号 p. 291-296

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抄録

グルタミン酸は,中枢神経系において主要な興奮性神経伝達物質であり,記憶・学習などの脳高次機能に重要な役割を果たしている.しかし,その機能的な重要性の反面,興奮毒性という概念で表されるように,過剰なグルタミン酸は神経細胞障害作用を持ち,主要な精神疾患に関与すると考えられている.我々は,グルタミン酸の細胞外濃度を制御するグリア型グルタミン酸トランスポーターの機能を阻害したマウスを作製し,そのマウスに,自閉症や統合失調症で観察される脳形成異常と似た脳発達障害や社会行動の障害,強迫性行動,統合失調症様の行動異常が観察されることを発見した.さらに,統合失調症,うつ病,強迫性障害,自閉症など主要な精神疾患において,グリア型グルタミン酸トランスポーターの異常が報告されている.これらの結果から,我々は,主要な精神疾患の中に,グルタミン酸トランスポーターの異常による興奮性と抑制性のアンバランスが原因で発症する患者が一定の割合存在し,「グルタミン酸トランスポーター機能異常症候群」として分類できると考えている.グリア型グルタミン酸トランスポーターを活性化する化合物は,新しい抗精神疾患薬として有用であると期待される.

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