日本薬理学雑誌
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特集 受容体シグナルによる幹細胞制御
『糖尿病の再生医療の実現へ向けて』 膵β細胞の分化を制御するシグナル
粂 昭苑
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2014 年 144 巻 1 号 p. 8-12

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抄録
筆者らはこれまで膵への分化誘導方法の構築をしてきた.足場を至適化することにより,分化効率化を図ってきた.最近,未知な分化制御機構を探索するために,低分子化合物ライブラリーをスクリーニングし,その知見を利用することで,in vitro でグルコース濃度依存的にインスリンを分泌できる(GSIS)インスリン陽性細胞を作成することに成功した.著者らは,膵臓前駆細胞からNgn3 陽性の内分泌前駆細胞への分化促進薬として小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)阻害薬であるレセルピンおよびテトラベナジン(TBZ)を同定した.レセルピンおよびTBZ は分化効率化の作用とともに,分化細胞内のインスリン含量を増やす作用を示す.また,同様に,分化促進作用を有するものとして同定された細胞透過性cAMP アナログであるdBu-cAMPは,糖応答性インスリン分泌能を有する細胞へ分化させる作用を持つ.VMAT2 阻害薬とdBu-cAMPの両方を作用させることで,成体内の機能的な膵β細胞と近いインスリン含量および糖応答性インスリン分泌能を持った成熟したβ細胞を作り出すことができた.さらにES 細胞由来のβ細胞を糖尿病モデルマウスに移植したところ血糖値が正常に戻った.今回の研究成果は将来的な多能性幹細胞を用いた再生医療に貢献できる可能性を示した.
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© 2014 公益社団法人 日本薬理学会
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