日本薬理学雑誌
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糖尿病・代謝性疾患の新規治療薬創製を目指した研究戦略
『胆汁酸吸着剤の血糖低下・体重低下作用機序』 新規代謝性疾患治療薬としての胆汁酸吸着剤の新たな可能性~ヒト臨床データを活用した研究戦略~
杉本 佳奈美
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2014 年 144 巻 2 号 p. 64-68

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抄録
高コレステロール血症治療薬である胆汁酸吸着剤は,市販後調査データあるいは臨床試験で2 型糖尿病患者の高血糖改善や体重低下の成績が得られてきており,その新規薬効に注目が集まっている.作用機序については様々な説が提唱されているものの,十分に解明されていない.今回我々は高脂血症およびインスリン抵抗性を呈する高脂肪食負荷apoE3-Leiden transgenic マウスを用いて,胆汁酸吸着剤コレスチランのインスリン感受性増強作用・体重低下作用およびその作用機序について検討した.コレスチランの8 週間混餌投与により体重,脂肪組織重量,血中コレステロールが低下し,肝脂質合成および糞中への脂質排泄が増加した.一方糖代謝に対して,コレスチランは血中グルコースおよびインスリンを低下させ,クランプ試験において末梢のインスリン感受性を増大させた.標識脂肪酸のinfusion 試験によりコレスチランは胆汁中への脂肪酸由来コレステロールおよびリン脂質の排泄を増加させることが見出された.以上の結果から,コレスチランは糞中への胆汁酸,コレステロール,リン脂質の排泄により,肝臓での脂質合成を増加させ脂肪組織の脂肪酸を動員させることにより,内臓肥満の改善および末梢インスリン感受性を増加させることが示唆された.胆汁酸吸着剤は,肥満,インスリン抵抗性および2 型糖尿病の新たな治療薬となる可能性が考えられる.すでに市販されている薬剤の臨床データから得られた新規知見を活用して新たな薬効・作用機序を見出していくことは,新規創薬ターゲット発掘において有用な研究戦略の一つとなりうると考えられる.
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© 2014 公益社団法人 日本薬理学会
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