日本薬理学雑誌
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144 巻, 2 号
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糖尿病・代謝性疾患の新規治療薬創製を目指した研究戦略
  • 原 崇, 浦野 文彦
    2014 年 144 巻 2 号 p. 53-58
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/10
    ジャーナル フリー
    近年の研究成果より,小胞体ストレスが糖尿病におけるβ細胞死に深く関わっていることが明らかとなっている.本稿では,小胞体ストレスに起因するβ細胞死を抑制するための創薬アプローチとして二つの方法を紹介する.一つは小胞体ストレス依存性のアポトーシス誘導因子を見出し抑制する方法である.β細胞は小胞体ストレスに対して脆弱であり,閾値を越えた小胞体ストレスを受けると積極的にアポトーシスを誘導する.我々はこの小胞体ストレス依存性のアポトーシス誘導因子としてthioredoxin-interacting protein(TXNIP)を見出した.TXNIP は小胞体ストレスを受けると発現が上昇し,インフラマソーム活性化を介して細胞死を誘導した.TXNIP の発現を抑制すると小胞体ストレスによるβ細胞死が減少したことから,TXNIP を標的とした創薬の可能性を提示した.もう一つのアプローチは,ストレスによって生じる小胞体カルシウムの減少を抑制して細胞死を防ぐ方法である.我々はβ細胞に有害な高グルコース,脂肪酸,サイトカインなど様々な糖尿病の増悪因子がβ細胞の小胞体カルシウム量を減少させ,小胞体ストレスを引き起こし,細胞死を誘導することを示した.実際に小胞体カルシウムの減少を抑制する化合物は小胞体ストレスによるβ細胞死を防いだことから,小胞体カルシウム量を指標とした化合物スクリーニングがβ細胞死を防ぐ化合物探索に有効であることを示した.ここで示したアプローチ以外でも様々な切り口で小胞体ストレスに由来するβ細胞死を抑制することが可能であるが,それには小胞体ストレスの特性をよく知っておくことが重要である.ここでは小胞体ストレスの概要を紹介しながら,我々が検討してきた基盤研究について紹介し たい.
  • 辻畑 善行
    2014 年 144 巻 2 号 p. 59-63
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/10
    ジャーナル フリー
    G タンパク質共役型受容体(GPCR)は,既存薬の約30%が作用する主要な創薬ターゲット分子であるため,ゲノム解析から新たに発見されたGPCRの中には,新薬の標的分子が潜在している可能性ある.G protein- coupled receptor 40/free fatty acid receptor 1(GPR40/FFAR1)は,インスリン分泌細胞である膵β細胞に高発現するGPCR として発見され,その後の機能解析から,この受容体が遊離脂肪酸によるインスリン分泌作用を担うことが示された.GPR40/FFAR1 を介したインスリン分泌促進作用はグルコース濃度依存的であることから,この受容体をターゲットとした合成低分子アゴニストは,低血糖リスクの少ない新たなインスリン分泌促進薬になることが期待されている.Fasiglifam(TAK- 875)は武田薬品工業(株)で創製された選択的かつ強力なGPR40/FFAR1 アゴニストであり,動物およびヒトの2 型糖尿病に対して著明な血糖効果作用を示す一方で,低血糖リスクが極めて少ないことが示された.本稿ではGPR40/FFAR1 の発見からfasiglifam の臨床成績取得に至るまでの研究開発経緯について紹介する.GPR40/FFAR1 をターゲットとした創薬研究を通じて我々が得た一連の結果は,この受容体が新規糖尿病治療薬の標的分子として有望であることを示唆している.
  • 杉本 佳奈美
    2014 年 144 巻 2 号 p. 64-68
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/10
    ジャーナル フリー
    高コレステロール血症治療薬である胆汁酸吸着剤は,市販後調査データあるいは臨床試験で2 型糖尿病患者の高血糖改善や体重低下の成績が得られてきており,その新規薬効に注目が集まっている.作用機序については様々な説が提唱されているものの,十分に解明されていない.今回我々は高脂血症およびインスリン抵抗性を呈する高脂肪食負荷apoE3-Leiden transgenic マウスを用いて,胆汁酸吸着剤コレスチランのインスリン感受性増強作用・体重低下作用およびその作用機序について検討した.コレスチランの8 週間混餌投与により体重,脂肪組織重量,血中コレステロールが低下し,肝脂質合成および糞中への脂質排泄が増加した.一方糖代謝に対して,コレスチランは血中グルコースおよびインスリンを低下させ,クランプ試験において末梢のインスリン感受性を増大させた.標識脂肪酸のinfusion 試験によりコレスチランは胆汁中への脂肪酸由来コレステロールおよびリン脂質の排泄を増加させることが見出された.以上の結果から,コレスチランは糞中への胆汁酸,コレステロール,リン脂質の排泄により,肝臓での脂質合成を増加させ脂肪組織の脂肪酸を動員させることにより,内臓肥満の改善および末梢インスリン感受性を増加させることが示唆された.胆汁酸吸着剤は,肥満,インスリン抵抗性および2 型糖尿病の新たな治療薬となる可能性が考えられる.すでに市販されている薬剤の臨床データから得られた新規知見を活用して新たな薬効・作用機序を見出していくことは,新規創薬ターゲット発掘において有用な研究戦略の一つとなりうると考えられる.
  • 須藤 正幸, 松本 雅彦
    2014 年 144 巻 2 号 p. 69-74
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/10
    ジャーナル フリー
    肝疾患の原因として肝炎ウイルス,アルコール,自己免疫,原発性胆汁性肝硬変やその他の代謝異常などがあげられる.最近,生活習慣に由来する非アルコール性の肝疾患(NAFLD/NASH)の増加が注目されている.本邦においては,生活習慣の欧米化に伴い,脂肪肝が成人男性の3 割ともいわれ,内臓脂肪型肥満やメタボリックシンドロームの表現型としてNAFLD が増加している.NAFLD の中でも進行性線維化病態を示すNASH の頻度は1%と推定され,抜本的な治療薬のニーズが議論されている.そこで,我々はこのような疾患に対する創薬アプローチとして,ヒト疾患を反映した動物モデルを作製することを試みた.既存の動物モデルを改良する方法で創薬に適した新しい動物モデルを構築した.
受賞講演総説
  • 大久保 洋平
    2014 年 144 巻 2 号 p. 76-80
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/10
    ジャーナル フリー
    G タンパク質共役型受容体であるグループⅠ代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)は,多様な脳機能に関与しており,薬物の新規標的としても注目されて いる.このmGluR シグナリングについて,可視化解析と新規機能探索という二種類のアプローチにより研究を行なった.従来の生理学・生化学的手法では,実際に神経細胞内で惹起されるmGluR シグナリングの解析は困難であり,それゆえmGluR シグナリングに関する基本的な知見が欠けている状況であった.この問題を克服するため,mGluR シグナリングにおける主要分子である,グルタミン酸およびイノシトール三リン酸(IP3)の蛍光イメージング法を開発し,可視化解析を行なった.これにより,mGluR 活性化に必要なグルタミン酸動態や,IP3 産生におけるmGluR とイオンチャネル型グルタミン酸受容体(iGluR)の間のクロストークなど,新たな知見を得ることに成功した.さらにこれらの成果に基づき,mGluR シグナリングの新たな機能的意義を探索した.これにより,成熟動物における経験入力依存性のシナプス可塑性には,mGluR シグナリング依存性にシナプス機能が維持されるという,新規の機構が関与することを明らかにした.本研究で得られた知見は,今後のmGluR に関する薬理学的研究の基盤となることが期待される.
総説
  • 落合 邦康, 落合(栗田) 智子
    2014 年 144 巻 2 号 p. 81-87
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/10
    ジャーナル フリー
    慢性炎症性疾患・歯周病は,中高年の約80%以上が罹患している国民病で,糖尿病,動脈硬化,脳血管障害などの全身疾患の誘因となることが報告されている.歯周病の原因である歯肉溝内のデンタルプラークでは,下部消化管に匹敵する高濃度の短鎖脂肪酸(SCFA)が産生されている.口腔粘膜直下には多数のリンパ球が存在し,腸管同様,共生細菌と宿主との間で進入と排除が繰り返されており,宿主の生体防御能を理解する上で有力な器官といえる.新たな視点から歯周病と全身疾患との関連性を検討する目的で,歯周病原菌代謝産物が歯周組織や病原性発現における微生物間の影響を報告してきた.一連のSCFA 研究から,高濃度の酪酸は,口腔環境維持に重要な口腔内レンサ球菌の発育を阻害し,病原性プラークへの遷移を誘導する.また,T細胞などの免疫担当細胞に顕著にアポトーシスを誘導し,局所免疫応答に変調を起こす.酪酸のエピジェネティック制御作用により潜伏感染HIV の転写が促進され,AIDS を発症する可能性が示唆さ れる.成人の大部分が罹患し,リンパ腫や上咽頭がんなどの原因となるEpstein-Barr ウイルスは,歯周病巣からも高率に検出され,酪酸により再活性化した.さらに,病変部から持続的に供給される酪酸によりがん細胞転移促進や酸化ストレス誘導によるaging process に関与する可能性も考えられる.膨大な腸内細菌研究は,SCFA が生体に有益な物質であることを示している.しかし,口腔のSCFA 研究により,高濃度酪酸は,生体に種々の為害作用を及ぼすばかりでなく,内因感染発症にも関与している可能性が示唆された.歯周病の病変部位は,細菌や各種炎症物質のreservoir として全身にさまざまな影響を与えているものと考えられる.細菌叢のメタゲノム解析と併せ, 新たな視点からSCFA などの代謝産物を検討することは極めて重要と考える.
創薬シリーズ(7)オープンイノベーション(17)
  • 中西 隆之, 曽我 俊幸, 植田 勝智
    2014 年 144 巻 2 号 p. 88-94
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/10
    ジャーナル フリー
    静岡県は,県東部地域を中心に,地域の民産学官が協同してライフイノベーション,医療健康産業クラスターの構築を図るファルマバレープロジェクトを推進している.ファルマバレープロジェクトは,世界一の健康長寿県の形成を目指して「健康増進・疾病克服」と「県民の経済基盤の確立」を両輪に,地域企業の高い技術力を活用しながら,患者・家族や医療現場のための,“ものづくり”“ひとづくり”“まちづくり” を展開し,地域の活性化を図っている.本プロジェクトは国の地域活性化総合特区の制度も活用しながら推進しており,平成24年には,医薬品・医療機器の合計生産額が1兆円を突破するなど,一定の成果を上げてきた.現在,地域内の高校跡地を活用して産学官金が共同して研究開発,製品開発や人材育成に取り組む新拠点の整備を進めており,さらなる飛躍を遂げるべく各種事業を展開している.
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