日本薬理学雑誌
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特集 脳内炎症の制御を基盤とした脳血管疾患の新規治療戦略
『脳浮腫治療薬の標的細胞としての アストログリア』 脳傷害時の血管透過性亢進におけるアストログリアの役割
小山 豊道永 昌太郎
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2014 年 144 巻 3 号 p. 115-119

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抄録
くも膜下出血や脳血栓などの脳卒中の急性期には,脳浮腫が生じる.脳浮腫は致死的な病態であるが,効果的な薬物治療は開発されていない.脳浮腫の発生にはアストログリアの産生する血管透過性亢進因子が関わる.そのため,脳損傷時のアストログリアの機能をコントロールし浮腫の発生を抑制しようとする創薬ストラテジーが提唱されている.我々はこのストラテジーの有効性を,アストログリアに高く発現しているエンドセリン(ET)受容体を,薬物標的として検討した.マウス大脳の凍結傷害は,損傷部位での血液脳関門の破綻と脳組織水分含量の増加(脳浮腫)を引き起こした.凍結傷害により惹起された脳浮腫は,傷害前でのETB アンタゴニストBQ788 の投与により抑制された.また,BQ788 の傷害前投与は,血中タンパク質のマーカーであるEvans blueおよび内因性アルブミンの漏出を抑制した.一方,凍結傷害による浮腫が形成された後での投与でも,BQ788 は脳浮腫および血中タンパク質の漏出を抑制した.ラット大脳および培養アストログリアでのETB 受容体の刺激は,血管透過性亢進因子であるMMP9 およびVEGF-A の発現を増加させた.また,アストログリアのAQP4 は脳内に蓄積した水の排出経路として働くが,ラット脳および培養アストログリアでのAQP4 発現は,ETB アゴニストにより減少した.凍結傷害は,マウス大脳でのMMP9 およびVEGF-A の発現を増加させたが,これらの増加はBQ788 投与により減少した.また,凍結傷害によるAQP4 発現減少も,BQ788 投与により抑制された.以上の結果は,脳損傷による浮腫発生へのET の関与を示すと共に,ETB 受容体が脳浮腫治療薬の標的分子となり得ることを示唆する.
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© 2014 公益社団法人 日本薬理学会
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