日本薬理学雑誌
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総説
がん治療ターゲットとしてのギャップジャンクションとコネキシン
佐藤 洋美宇津 美秋
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2015 年 145 巻 2 号 p. 74-79

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抄録

細胞間の結合様式にはタイトジャンクション(tight junction),アドヘレンスジャンクション(adherence junction),デスモソーム(desmosome),ギャップジャンクション(gap junction:GJ)などが知られているが,中でも唯一細胞間の情報伝達を担う様式がGJである.GJを構成するコネキシン(connexin:Cx)は生体内に普遍的に存在し,細胞の生存や増殖シグナルの制御,エネルギー産生の調節などを介して多様な生体反応に関わる.例えば,細胞間情報伝達により神経細胞や心筋細胞の興奮伝導,膵臓β細胞からのインスリン分泌などを支えている.一方で,細胞にストレス障害が掛かったときはGJを介して隣接する細胞へ障害が伝達されていくことで一部の細胞に掛かる致命的なダメージを希釈する.逆に解決不能なレベルのストレスを細胞が負ったときはGJが閉鎖されて一つの細胞のアポトーシスのみ実行され,組織全体へのダメージが避けられる.つまりGJは状況に応じて柔軟に生体内環境の調整役を果たしている.従ってGJの不全は生体環境の破綻を招き,細胞個々が勝手な振る舞いをすることを許してしまう.また,Cxの作用は単にGJというチャネルの構成因子である他,その発現部位(機能している状態)である細胞膜やミトコンドリア膜で,近傍の他のタンパク質の機能に影響を及ぼすことがわかってきた.例えば,細胞内では形態の維持や紡錘体の形成に寄与する微小管の安定化を介して細胞分裂にも影響を与える.このように多彩な生体反応を支える社会的なタンパク質,CxおよびGJについて,本総説ではがん細胞における役割や,がん治療ターゲットとしての可能性を紹介したい.

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