日本薬理学雑誌
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145 巻 , 2 号
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生活習慣病と循環器疾患研究の新展開
  • 岸 拓弥
    2015 年 145 巻 2 号 p. 54-58
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/02/10
    ジャーナル フリー
    血圧と交感神経は,短期的には圧受容器反射により閉ループのネガティブフィードバック関係にある.長期的な血圧は腎臓での圧利尿関係で決定されるが,そこにも圧受容器反射および交感神経が大きく関係している.我々は,高血圧を脳・腎・心・血管連関による血圧動的恒常性維持システム不全と考え,その制御の中心である圧受容器反射および圧受容器反射の中枢弓であり交感神経を規定する「脳」内,特に圧受容器反射中枢弓の最終情報統合部位で交感神経中枢である頭側延髄腹外側野(rostral ventrolateral medulla:RVLM)に着目して研究を行っている.一連の研究により,圧受容器反射の中枢弓が血圧の変動・安定性維持に重要であり,さらには圧利尿においても圧と同等の作用を有することを明らかにした.さらに,バイオニックブレインによる人工圧受容器制御が極めて有効であることも示した.また,脳内においては,交感神経中枢である延髄RVLM内のアンジオテンシンⅡタイプ1受容体活性化により産生される酸化ストレスが交感神経を活性化する最も強力な要因であり,高血圧における交感神経活性化の重要な機序となっていることを報告してきた.高血圧の本質的かつ未到達の治療標的は,脳である.
  • 籠田 智美, 丸山 加菜, 岩田 紗季, 多田 有加里
    2015 年 145 巻 2 号 p. 59-64
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/02/10
    ジャーナル フリー
    内臓脂肪型肥満を基盤とするメタボリックシンドロームは,心血管病の発症リスクが相乗的に増加することから,重要な予防ターゲットとして注目されている.血管の内側を覆う内皮細胞は,種々の因子を産生・放出し,血管の恒常性維持に重要な役割を担っている.血管緊張性を抑制的に制御する因子として発見された一酸化窒素(NO)は,これまでに様々な心血管病の発症における意義が報告されている.我々は,NOによる血管弛緩機能に注目し,モデルラットを用いて,メタボリックシンドロームでは,動脈は酸化ストレスに慢性的に曝露されることによってNOに対する反応性が低下すること,冠動脈に生じる拡張機能低下が心機能の低下を引き起こす要因となることを見出した.さらに,動脈に拡張障害が生じている場合,代償的に血管周囲の脂肪組織はNOに対する血管弛緩作用を亢進させ,血管緊張性維持に寄与している可能性を見出した.このことは,動脈とその周囲脂肪組織との間にクロストークが存在することを示唆するものであり,肥満と心血管病とを結びつける臓器間ネットワークとして注目される.
  • 風間 恭輔, 岡田 宗善, 山脇 英之
    2015 年 145 巻 2 号 p. 65-69
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/02/10
    ジャーナル フリー
    これまで脂肪組織は,単にエネルギーを蓄える貯蔵庫のようなものと考えられていた.しかし近年,脂肪組織は様々な生理活性物質(サイトカイン)を分泌することが認識されるようになり,これらはアディポサイトカインと呼ばれている.肥満により肥大化した脂肪組織において,アディポサイトカインの分泌は増減する.その結果,血中アディポサイトカインのバランス(善玉vs.悪玉)は不均衡となり,高血圧症や2型糖尿病,動脈硬化症などメタボリックシンドロームに関わる疾患の発症リスクが高まる.Omentinは2005年に大網脂肪組織中で同定された,313個のアミノ酸からなる比較的新規のアディポサイトカインである.Omentinは健常体では皮下脂肪よりも内臓脂肪組織に多く発現しており,近年の疫学調査により,その血中濃度は肥満症や高血圧症,2型糖尿病,アテローム性動脈硬化症,慢性腎不全,心臓病などの発症率と負の相関関係を示すことが明らかになった.よってomentinは,合併症を発症しない単なる肥満からメタボリックシンドロームへの移行の鍵を握る,重要なアディポサイトカインであると推察される.しかし,omentinの生理的あるいは病態生理的役割に関する基礎的な検討は全くなされてこなかった.本稿ではomentinと高血圧症の関連に焦点を当て,高血圧発症・進展の病態プロセス(in vitro)と血圧(in vivo)に及ぼす影響に関する当研究グループの成果を中心にomentinの病態生理的役割について概説する.Omentinはこれまでに検討した様々な病態プロセスに対して抑制的に働くことから,omentinは肥満による高血圧症治療のターゲットとなり得る非常に魅力的な分子である可能性が示唆される.
  • 森 麻美, 坂本 謙司, 中原 努, 石井 邦雄
    2015 年 145 巻 2 号 p. 70-73
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/02/10
    ジャーナル フリー
    糖尿病網膜症は後天性失明の主要な原因疾患であり,視覚障害原因の第一位を占める疾患である.この糖尿病網膜症の発症には網膜循環障害の関与が示唆されており,それに引き続く網膜虚血および低酸素状態が病態をさらに悪化させる.従って,糖尿病発症早期における網膜循環不全の改善が,糖尿病網膜症の発症および進行を予防あるいは遅延させるための有用な治療戦略となりうる.しかし日本においては,網膜脈絡膜循環障害に適応のある薬物はカリジノゲナーゼのみである.そこで我々は,独自に構築した小動物用in vivo網膜血管径計測システムを用い,新規網膜循環改善薬の探索を目標に,健常ラットおよび糖尿病をはじめとする病態モデルラットにおける網膜循環調節機構に関する研究を進めてきた.その結果,ラット網膜血管にはグアニル酸シクラーゼの発現が非常に少ないこと,また一酸化窒素(NO)による網膜血管拡張反応は,一部がシクロオキシゲナーゼ-1(COX-1)に由来したプロスタノイドの産生を介していることが明らかになった.NOによる降圧反応にこの機序の関与は認められないことから,網膜血管は他の血管床とは異なる特殊な拡張機序を有していることが示唆された.また,糖尿病早期のモデルラットでは,網膜血管の形態や網膜毛細血管密度に変化はないものの,アセチルコリン(ACh)の高コンダクタンスCa2+活性化K(BKCa)チャネルを介した網膜細動脈の拡張反応が減弱することも見出した.これらの結果から,高血糖によるBKCaチャネルの機能障害は,網膜血管機能異常をもたらし,糖尿病網膜症の発症に寄与していることが示唆された.従って,BKCaチャネルの機能障害を抑制し,網膜循環障害を改善するような薬物は,糖尿病網膜症の発症や進行を予防する有用な治療薬となる可能性がある.
総説
  • 佐藤 洋美, 宇津 美秋
    2015 年 145 巻 2 号 p. 74-79
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/02/10
    ジャーナル フリー
    細胞間の結合様式にはタイトジャンクション(tight junction),アドヘレンスジャンクション(adherence junction),デスモソーム(desmosome),ギャップジャンクション(gap junction:GJ)などが知られているが,中でも唯一細胞間の情報伝達を担う様式がGJである.GJを構成するコネキシン(connexin:Cx)は生体内に普遍的に存在し,細胞の生存や増殖シグナルの制御,エネルギー産生の調節などを介して多様な生体反応に関わる.例えば,細胞間情報伝達により神経細胞や心筋細胞の興奮伝導,膵臓β細胞からのインスリン分泌などを支えている.一方で,細胞にストレス障害が掛かったときはGJを介して隣接する細胞へ障害が伝達されていくことで一部の細胞に掛かる致命的なダメージを希釈する.逆に解決不能なレベルのストレスを細胞が負ったときはGJが閉鎖されて一つの細胞のアポトーシスのみ実行され,組織全体へのダメージが避けられる.つまりGJは状況に応じて柔軟に生体内環境の調整役を果たしている.従ってGJの不全は生体環境の破綻を招き,細胞個々が勝手な振る舞いをすることを許してしまう.また,Cxの作用は単にGJというチャネルの構成因子である他,その発現部位(機能している状態)である細胞膜やミトコンドリア膜で,近傍の他のタンパク質の機能に影響を及ぼすことがわかってきた.例えば,細胞内では形態の維持や紡錘体の形成に寄与する微小管の安定化を介して細胞分裂にも影響を与える.このように多彩な生体反応を支える社会的なタンパク質,CxおよびGJについて,本総説ではがん細胞における役割や,がん治療ターゲットとしての可能性を紹介したい.
実験技術
  • 原 一恵, 鈴木 宏昌, 草苅 伸也, 松岡 正明
    2015 年 145 巻 2 号 p. 80-84
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/02/10
    ジャーナル フリー
    医学教育分野別認証取得に向けた臨床実習時間の拡大に伴い,基礎医学の講義・実習時間数が減少する.これに起因する学習時間の不足を補うためには,学生自身が自ら学ぶ姿勢へと導く教育方法の改善が必要であり,そのための有力な手段のひとつとして,認証取得の一必要条件ともなっているe-learningシステムが考えられる.今回,東京医科大学に導入されているe-learningシステムを使用し,血中濃度モニタリングシミュレーション実習について事前学習の導入を試みた.本報告では,実習終了後のアンケート調査ならびに提出レポートの内容,その他を分析することにより,e-learningシステムを用いた事前学習の効果について検討した.その結果,e-learningシステムを用いた事前学習は学生の実習内容に対する理解度を有意に高め,授業時間内に円滑な薬理学シミュレーション実習を遂行することに寄与することが明らかとなった.この結果は,e-learningシステムを今後広く学生の自主学習を助ける手段として活用することの妥当性を支持している.
創薬シリーズ(7)オープンイノベーション(18)
  • 晶 利明
    2015 年 145 巻 2 号 p. 85-91
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/02/10
    ジャーナル フリー
    大阪大学が田辺三菱製薬と締結した協働事業契約に基づき立ち上げたプロジェクトMEETは,医学研究に係るシーズを発掘あるいは創生し,その育成により未来医療に資する新たな治療法として確立し,このシーズ研究において発見した薬物標的に関する知見をもとに創製する新薬を医療現場に供し社会への還元を果たす取り組みである.本プロジェクトは,製薬企業との協働による大阪大学の研究シーズの育成に主眼をおいたものであるが,特に支援企業の研究開発戦略や創薬に対する関心疾患に捉われることなく,現行の医療において解決すべき課題を有し,その解決が急務で不可避であれば,例えそれが希少疾患を対象とするものであってもその研究の進展を支援することにある.以下にその概要を記述し,本学のアカデミア創薬における取組みの一環としての製薬企業との連携の具体例を示す.
新薬紹介総説
  • 梛野 健司, 堤 健一郎, 石堂 美和子, 原田 寧
    2015 年 145 巻 2 号 p. 92-99
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/02/10
    ジャーナル フリー
    シメプレビルは,大環状構造を有する第2世代のプロテアーゼ阻害薬であり,ペグインターフェロン(PegIFN)およびリバビリン(RBV)と併用して,C型肝炎ウイルス(HCV)genotype 1の慢性感染の治療に使用する.本薬の作用機序は,HCVの非構造タンパク質(NS)の1つであるNS3/4Aプロテアーゼに結合し,NS3/4Aプロテアーゼが関与するHCVタンパク質のプロセッシングおよびRNA複製を阻害して抗HCV活性を発揮する.HCVレプリコンに対するシメプレビルのin vitro抗HCV活性は,HCV genotype 1aおよびHCV genotype 1bに対して同程度の活性を持ち,第1世代プロテアーゼ阻害薬であるテラプレビルと比較して強い.シメプレビルの抗HCV活性は,インターフェロン(IFN)またはリバビリンとの併用により,相乗または相加作用を示した.日本で実施したHCV genotype 1・高ウイルス量のC型慢性肝炎患者を対象とした臨床試験において,シメプレビル100 mg 1日1回をPegIFNα-2a/2bおよびRBVと併用投与したときの治療終了後12週時の持続的ウイルス陰性化(SVR12)率は,初回治療例および前治療再燃例で約90%,前治療無効例で約40~50%であり,安全性および忍容性は良好であった.C型肝炎治療ガイドラインにおいて,シメプレビルとPegIFNおよびRBVの3剤併用療法は,HCV genotype 1・高ウイルス量のC型慢性肝炎患者に対するIFN-based therapyの第1選択薬とされており,シメプレビルはC型慢性肝治療に大きく貢献できる薬物である.
  • 高橋 希, 鈴木 忍, 酒井 兼司, 東 久弥
    2015 年 145 巻 2 号 p. 100-106
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/02/10
    ジャーナル フリー
    近年,上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性の進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)に対する1次治療において,EGFR-チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の有効性が示されている.アファチニブは,EGFR(ErbB1)のほか,HER2(ErbB2)やErbB4のチロシンキナーゼ領域のアデノシン三リン酸(ATP)結合部位に共有結合することで,それらのリン酸化を阻害する不可逆的ErbB受容体ファミリー阻害薬である.非臨床研究においてアファチニブは,EGFRのほか,HER2およびErbB4のチロシンキナーゼ活性を選択的かつ持続的に阻害し,EGFR受容体を発現する種々の腫瘍細胞に対する細胞増殖抑制効果およびマウス担がんモデルに対する腫瘍増殖抑制効果を示した.国内外で実施されたEGFR-TKIを含む化学療法未治療のEGFR遺伝子変異を有する進行NSCLC患者を対象とした臨床試験では,アファチニブは標準化学療法に比べ,無増悪生存期間(PFS)の有意な延長を示したほか,健康関連の生活の質(QOL)の評価において,肺がん関連症状の改善効果を示した.アファチニブによる有害事象としては,主に下痢,発疹/ざ瘡,口内炎,爪の異常などが認められたが,その多くは支持療法,休薬/減量により管理可能であった.以上から,アファチニブの有効性,安全性が確認されたことにより,我が国では,2014年1月に「EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌」に対する治療薬として承認された.
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