日本薬理学雑誌
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急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の病態解明と新しい治療への薬理学的アプローチ
細菌感染と急性肺傷害
佐和 貞治
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2015 年 145 巻 3 号 p. 112-116

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抄録

急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)は,急性肺傷害のなかで最も救命率の低い致死性病態である.細菌性肺炎が原因となることが多いことから,細菌感染に対する治療法がARDSの高い死亡率を改善するうえではもっとも重要な戦略である.近年,多くの病原性グラム陰性細菌は,Ⅲ型分泌システムと呼ばれる新しく発見された毒素分泌メカニズムを介してその病原性を発揮することが解明されてきた.この分泌システムを用いて細菌はその毒素を直接,標的細胞の細胞質に転移させる.転移した毒素は,真核細胞の細胞内シグナリングをハイジャックし,細菌がホストの免疫機構から回避できるよう誘導する.我々はこれまで緑膿菌性の急性肺傷害のメカニズムについて研究を進め,その結果,緑膿菌のⅢ型分泌システムが緑膿菌性肺炎における急性肺傷害の病態メカニズムに深く関与していることを見出した.細胞毒性の強い緑膿菌は,肺上皮の急性壊死を引き起こすⅢ型分泌毒素を分泌し,急速に全身循環への細菌播種を誘導して敗血症へと進展させる.Ⅲ型分泌に関わるタンパク質の中でV抗原と呼ばれるPcrVタンパク質にⅢ型分泌毒性に対抗できる免疫効果があることを発見した.ヒト化された抗PcrV抗体が開発され,現在臨床試験が行われている.他の多くの病原性グラム陰性菌もこのV抗原相同体,もしくはV抗原様相同体を持つ.従って,V抗原抗原やその相同体は,致死性の細菌感染に対する現在新しいワクチンや治療のターゲットとして注目されている.

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