日本薬理学雑誌
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145 巻 , 3 号
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急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の病態解明と新しい治療への薬理学的アプローチ
  • 佐和 貞治
    2015 年 145 巻 3 号 p. 112-116
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/10
    ジャーナル フリー
    急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)は,急性肺傷害のなかで最も救命率の低い致死性病態である.細菌性肺炎が原因となることが多いことから,細菌感染に対する治療法がARDSの高い死亡率を改善するうえではもっとも重要な戦略である.近年,多くの病原性グラム陰性細菌は,Ⅲ型分泌システムと呼ばれる新しく発見された毒素分泌メカニズムを介してその病原性を発揮することが解明されてきた.この分泌システムを用いて細菌はその毒素を直接,標的細胞の細胞質に転移させる.転移した毒素は,真核細胞の細胞内シグナリングをハイジャックし,細菌がホストの免疫機構から回避できるよう誘導する.我々はこれまで緑膿菌性の急性肺傷害のメカニズムについて研究を進め,その結果,緑膿菌のⅢ型分泌システムが緑膿菌性肺炎における急性肺傷害の病態メカニズムに深く関与していることを見出した.細胞毒性の強い緑膿菌は,肺上皮の急性壊死を引き起こすⅢ型分泌毒素を分泌し,急速に全身循環への細菌播種を誘導して敗血症へと進展させる.Ⅲ型分泌に関わるタンパク質の中でV抗原と呼ばれるPcrVタンパク質にⅢ型分泌毒性に対抗できる免疫効果があることを発見した.ヒト化された抗PcrV抗体が開発され,現在臨床試験が行われている.他の多くの病原性グラム陰性菌もこのV抗原相同体,もしくはV抗原様相同体を持つ.従って,V抗原抗原やその相同体は,致死性の細菌感染に対する現在新しいワクチンや治療のターゲットとして注目されている.
  • 今井 由美子
    2015 年 145 巻 3 号 p. 117-121
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/10
    ジャーナル フリー
    H5N1鳥インフルエンザウイルスをはじめとした強毒型のインフルエンザウイルスがヒトに急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や多臓器不全といった致死的病態を引き起こすが,重症化したインフルエンザに対する有効な治療法は未だ開発されていない.私達は,脂肪酸代謝物のライブラーを用いたスクリーニングと質量分析法による脂肪酸代謝物のリピドミクス解析を通して,ドコサヘキサエン酸由来の代謝物がウイルスRNAの核外輸送を抑制することによって,インフルエンザウイルスの増殖を抑えることを見出した.同代謝物の産生量とウイルスの病原性には負の相関が認められた.また,同代謝物は予防的に投与しても,これまで救命の難かった感染48時間後に投与しても,重症インフルエンザマウスの生存率を改善させ,ARDSの重症化を阻止することがわかった.これらの知見から,宿主の脂肪酸代謝経路ならびに代謝物はインフルエンザ重症化のバイオマーカーとして,また治療標的としての可能性を有していることが示唆された.
  • 大橋 若奈, 服部 裕一
    2015 年 145 巻 3 号 p. 122-128
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/10
    ジャーナル フリー
    高齢化,移植や悪性腫瘍の化学療法などによる免疫機能の低下,多剤耐性菌の出現などにより,敗血症は現在においてもなお高い死亡率を有している.敗血症の死亡率は,循環不全を伴った重症敗血症,敗血症性ショックと重症化するに伴い上昇することから,早期における適切な治療法を確立することの重要性がうかがえる.これまで,種々の治療法が試されてきているものの,残念ながらどれも根治的な治療成果は得られてはおらず,有効な治療法の確立を目指した基礎的研究が続けられている.GPCR(G protein-coupled receptor)の脱感作と内部移行を担うGRK(G protein-coupled receptor kinase)2は,近年の研究の進展により,GPCRシグナル伝達の調節のみならず非受容体型分子と相互作用することでGPCR以外の細胞内シグナル伝達を調節する因子として振舞っている様子が明らかとなり,多彩な病態生理学的な役割を持つ可能性が浮かび上がってきた.本稿では敗血症性におけるGRK2の治療標的としての可能性について述べる.
  • 竹内 理
    2015 年 145 巻 3 号 p. 129-133
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/10
    ジャーナル フリー
    自然免疫は,肺傷害の原因となる細菌やウイルス感染認識を介して,その発症,重症化に深く関わっている.中でも自然免疫受容体として重要なToll-like receptor(TLR)は,インフルエンザウイルスなどの感染に対する急性肺傷害に重要であることが報告されている.一方で,TLRを介した認識は,感染防御に必須であり,生理的な条件下では,TLRにより惹起される炎症応答は適切に調節を受けることで,過剰な応答を起こさずに病原体感染を排除している.サイトカインをはじめとした炎症関連遺伝子発現は,転写調節のみではなく,転写後のmRNA分解速度や翻訳などによって緻密に制御され,適切な炎症応答を保っている.microRNAだけではなく,mRNA不安定化を促すTristetraprolinやRNA分解酵素であるRegnase-1といったmRNAの3′UTRに結合するRNA結合タンパク質が炎症制御に重要であることが明らかになってきた.シグナル伝達経路によりRegnase-1の発現が直接制御されることから,mRNA安定性は,転写に加えた新たな外的シグナル受容システムであると考えられる.本総説では,Regnase-1を切り口に炎症の転写後調節の分子メカニズムに焦点を当て,紹介したい.
総説
  • 上野 太郎, 粂 和彦
    2015 年 145 巻 3 号 p. 134-139
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/10
    ジャーナル フリー
    睡眠の基礎研究は古くから哺乳類を中心に行われ,その評価は脳波により生理学的に判定されてきた.近年,遺伝学のモデル動物として広く用いられるショウジョウバエにおいて,行動学的な睡眠が定義されることにより,睡眠の分子生物学が発展している.ショウジョウバエを用いた睡眠研究により,睡眠制御の分子メカニズムが昆虫と哺乳類で共通していることが示され,豊富な遺伝学的ツールを用いることで睡眠を制御する神経回路が同定されてきている.我々は,ドパミンの再取り込みを担うドパミントランスポーターの変異体(fumin変異体)が短時間睡眠を示すことを発見し,ショウジョウバエにおいてドパミンシグナルが哺乳類と同様に睡眠覚醒を制御することを明らかにしてきた.ドパミンは睡眠覚醒や学習記憶など様々な生理機能をもつが,それら複数の生理機能がどのようにして実現されているかはこれまで不明であった.ショウジョウバエの遺伝学を駆使することにより,独立したドパミン神経回路が学習記憶と睡眠覚醒を制御することが一細胞レベルで明らかにされた.ドパミンはシナプス終末から放出されると古典的なシナプス伝達に加えて,拡散性伝達により,神経間情報伝達を行うことが知られている.ドパミンの再取り込みを担うドパミントランスポーターに注目し,睡眠ならびに記憶の表現型を解析することにより,ドパミントランスポーターによる拡散性伝達制御が明らかになった.本総説では我々がこれまで明らかにしてきたドパミンによるショウジョウバエの睡眠制御機構について解説する.これまでに明らかになった睡眠の分子基盤・神経基盤をもとに,進化的に保存されてきた睡眠の共通原理の解明が進むと考えられる.
  • 戸苅 彰史, 近藤 久貴, 平居 貴生, 兒玉 大介, 新井 通次, 後藤 滋巳
    2015 年 145 巻 3 号 p. 140-145
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/10
    ジャーナル フリー
    骨芽細胞および破骨細胞にアドレナリン受容体(AR)の発現が見出されて以来,骨代謝における交感神経系の生理的役割についての研究が著しく進展した.これら細胞へのARシグナルが神経由来であることも示されている.交感神経の骨代謝に及ぼす影響として,β2-ARによる骨吸収の促進および骨形成の抑制による骨量低下が認められている.一方,α1-ARによる骨形成の促進も見出されており,その促進機構を明らかにすると共に,骨芽細胞におけるβ2-ARとα1-ARシグナルの相互関連の解析が求められている.また,臨床的にβ-AR遮断薬が骨折リスクを低下させることが高血圧患者において認められているが,歯科矯正治療における歯の移動をβ-AR遮断薬およびβ-AR作動薬により調節できる可能性も動物実験で示されている.骨組織の局所におけるメカニカルストレスが交感神経活動を制御する機構を解析するため,交感神経と感覚神経との相互関連の解析も望まれる.
創薬シリーズ(7)オープンイノベーション(19)
  • 増田 和成, 村戸 康人, 三宅 善敬, 西井 正造, 小田 祥二
    2015 年 145 巻 3 号 p. 146-151
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/10
    ジャーナル フリー
    横浜・神奈川は,企業や公的機関の本社・本部機能が集中する首都・東京と隣接する地理的要因もあって,旧来から多様な機関の研究施設が集積している地域である.すなわち,オープンイノベーションを進めるための基盤環境を備えた高い潜在力を有する地域であり,そのようなアドバンテージをいかに活かして革新的な技術や産業の創出を加速していくかを主要課題の一つとしている.筆者らが所属する公益財団はオープンイノベーションに関連して,①バイオ関連機関の組織化やマッチング,②公的資金獲得に向けた支援と研究管理,③バイオの研究開発に必要な機能(タンパク医薬の治験薬の調製)や研究開発拠点の提供等を行っている.本稿では,そのような活動をもとにした,オープンイノベーションによる横浜・神奈川地域における生命科学産業の潜在力の顕在化・最大化に向けた最近の取り組みの事例を概説する.
新薬紹介総説
  • 天野 学, 石川 博樹
    2015 年 145 巻 3 号 p. 152-162
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/10
    ジャーナル フリー
    ダクラタスビルとアスナプレビルの併用療法は,genotype 1のC型慢性肝炎およびC型代償性肝硬変を適応症とする日本で初めてのインターフェロン(IFN)を使用しない経口抗ウイルス薬のみによる治療法である.ダクラタスビルは,C型肝炎ウイルス(HCV)の非構造タンパク質5A(NS5A)複製複合体阻害薬であり,アスナプレビルは,第二世代の非構造タンパク質NS3/4A(NS3/4A)プロテアーゼ阻害薬である.HCVレプリコン細胞を用いたin vitro試験において,ダクラタスビルおよびアスナプレビルはいずれもHCVの広範なgenotypeに対して阻害活性を有し,特にgenotype 1のHCVレプリコンに対し強力な阻害活性を示した.また,両薬のHCVに対する選択性は極めて高く,細胞毒性は低いことが示された.ダクラタスビルとアスナプレビルの併用により抗ウイルス活性の相加または相乗効果が認められたが,細胞毒性の増強はみられなかった.Genotype 1bのC型慢性肝炎患者を対象とした国内臨床試験では,前期第Ⅱ相試験に引き続き実施した第Ⅲ相試験において,ダクラタスビル60 mgの1日1回とアスナプレビル100 mgの1日2回で24週間併用投与した結果,高い抗ウイルス効果が確認された.また,ダクラタスビルとアスナプレビルの併用療法は,年齢,性別,肝硬変の有無,IL28Bの遺伝子多型やウイルス量等の背景因子による治療効果に差が認められず,いずれの患者集団に対しても優れた治療効果を示した.主な有害事象として肝機能障害を認めたが,検査頻度と中止基準を設定することで有害事象の管理を可能とした.安全性プロファイルは概して良好であった.ダクラタスビルとアスナプレビルの併用療法は,既存のIFNを含む治療が困難な患者やIFNを含む治療で十分な効果が得られなかった患者など,これまで有効な治療法のなかった患者に対して新たな治療を提供するものと期待される.
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