日本薬理学雑誌
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感覚薬理学の新展開~口腔・咽頭・上部消化管感覚異常と疾病~
ドライマウス治療に味覚刺激を利用する
佐藤 しづ子笹野 高嗣
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2015 年 145 巻 6 号 p. 288-292

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抄録

わが国では,超高齢化に伴いドライマウス患者が急増している.今や,ドライマウスは,患者のみならず社会・経済を圧迫する重要課題となった.近年,総唾液分泌量低下を伴わないドライマウスの存在が判明し,世界中で,ドライマウス病態理解にさらなる検討が加えられている.最も有力な候補は小唾液腺である.しかしながら,小唾液腺は1~2 mmと小さく口腔全体に散在し,その分泌量は総唾液量の約1割と少なく,小唾液腺唾液を採取し定量的に測定することは困難である.そのために,ドライマウスと小唾液腺との関連に関する報告は少ない.我々は,ヨウ素デンプン反応を原理とした簡便な小唾液腺唾液分泌量測定法を開発した.この測定法によって,①ドライマウス患者では健常者よりも小唾液唾液分泌量が少ないこと,②健常群では総唾液分泌量と小唾液腺唾液分泌量との間に相関があるが,ドライマウス患者群では相関がないことを解明した.さらに,小唾液腺唾液分泌量測定法は,総唾液分泌量測定法に比べて,感度,陰性適中率,正確度が優れていることが判明し,以上の結果から,小唾液腺はドライマウスの治療ターゲットとして重要であると考えられる.一方,ドライマウス治療薬の多くは,高齢者や虚弱者に副作用を生じやすい.我々は,口腔感覚としての味覚が,味覚-唾液反射を介して唾液分泌量を増加させる現象に着目し,ドライマウス治療への応用を検討している.小唾液腺におけるこの反射の存在は不明であったが開発した測定法を用い,うま味は,酸味と同等の小唾液腺唾液分泌促進効果を有し,さらに酸味よりも促進効果が長く持続することを解明した.現在,患者に「うま味」療法を試行しているが,「うま味」は,口腔粘膜を刺激することなく患者8割のドライマウスを改善し,ドライマウス併発症状の改善にも有用であった.「うま味」療法は,ドライマウスに対する安心で安全な治療法として普及することが期待される.


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