日本薬理学雑誌
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総説
Muse細胞研究の現状と展望
若尾 昌平出澤 真理
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2015 年 145 巻 6 号 p. 299-305

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抄録

組織幹細胞の一つである間葉系幹細胞は骨髄や皮膚,脂肪などの間葉系組織に存在し,様々な細胞を含む集団から構成されているが他の組織幹細胞とは異なり,発生学的に同じである骨や脂肪,軟骨といった中胚葉性の細胞だけでなく,胚葉を超えた外・内胚葉性の細胞への分化転換が報告されている.このことから,間葉系幹細胞の中には多能性を有する細胞が含まれている可能性が考えられていた.我々は,これらの一部の間葉系幹細胞の胚葉を超えた広範な分化転換能を説明する一つの答えとなり得る,新たな多能性幹細胞を見出し,Multilineage-differentiating stress enduring(Muse)細胞と命名した.Muse細胞は胚葉を超えて様々な細胞へと分化する多能性を有するが腫瘍性を持たない細胞である.また,その最大の特徴として,回収してそのまま静脈へ投与するだけで損傷した組織へとホーミング・生着し,場の論理に応じて組織に特異的な細胞へと分化することで組織修復と機能回復をもたらす点がある.すなわち生体に移植する前にcell processing centerにおいて事前の分化誘導を必ずしも必要としない,ということであり,静脈投与するだけで再生治療が可能であることを示唆する.本稿ではこれらMuse細胞研究の現状と一般医療への普及を目指した今後の展望について考察したい.


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