日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
JAK阻害薬ルキソリチニブ(ジャカビ錠®)の薬理学的特長および臨床成績
田中 基晴池田 七田原 さやか
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2015 年 146 巻 1 号 p. 54-61

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抄録

骨髄線維症(myelofibrosis:MF)は,骨髄の広範囲の線維化,脾腫および随伴する臨床症状を特徴とする造血器腫瘍であるが,選択可能な治療法は極めて限られており,新しい治療法の開発が望まれていた.MFの発生には血液細胞の分化・増殖に関与するJanusキナーゼ(JAK)2の活性化,および消耗性の全身症状には炎症性インターロイキンシグナル伝達に寄与するJAK1が関与することが示唆されている.ルキソリチニブ(ジャカビ錠®)はJAK1およびJAK2に選択性を示す新規のJAK阻害薬である.ピロロピリミジン誘導体(一リン酸塩)である本薬はJAK1およびJAK2に高い選択性(IC50<5 nM)を示し,恒常的活性化型JAK2変異遺伝子(JAK2V617F)発現細胞株のJAK/STATシグナル伝達および増殖を抑制した.また本薬はJAK2V617F変異遺伝子発現細胞を接種したマウスにおいて,脾腫縮小や延命効果,また炎症性サイトカインの血中濃度を低下させるなど,そのJAK阻害効果がin vivoにおいても確認された.本薬のヒトにおけるCmaxおよびAUCは投与量にほぼ比例し半減期は約3時間であった.おもな消失経路は代謝であり,おもにCYP3A4が,またCYP2C9もわずかにその代謝に寄与する.本薬の薬物動態に関し,性別,体重および民族で大きな違いはないと考えられる.海外においてMF患者を対象とした2つの主要な第Ⅲ相臨床試験が実施され,本薬15 mg 1日2回もしくは20 mg 1日2回を開始投与量として投与した場合,対象群と比較し,有意に脾腫縮小効果が認められた.また臨床症状の改善および死亡リスクの減少傾向も示された.おもな有害事象として貧血,血小板減少症が高率に報告された.日本人を含むアジア人を対象とした第Ⅱ相試験でも同様の有効性,忍容性が示されたことから,本邦においても2014年7月にMF治療薬として承認された.

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