2016 年 147 巻 2 号 p. 114-119
近年,フィジオーム・システムバイオロジーと呼ばれる分野がめざましい成果をあげている.還元主義的生命科学の成功から得られた膨大で精密な実験データに基づいて構築された数理モデルが果たした役割が大きい.生体システムに含まれる要素の多さ,関連の複雑さ,非線形性などのため,データに基づく思考実験からその機能発現のメカニズムを推定することは難しい.このため,タンパク質レベルから臓器・個体レベルまで,各階層における,あるいは階層横断的な生理機能を定量的に記述し,つまり数理モデルを構築し,数値シミュレーションによりダイナミクスを取り出すという手法がしばしばとられる.多くの場合,これらのモデルを薬剤の効果・毒性評価や診断などへ応用することを目的としているため,より網羅的でより精密なモデルを構築することが求められる.詳細生理モデルの開発には研究者間でのモデルの再利用や共有が有効であり,そのような活動をシステマティックにサポートする枠組みが必要とされている.このための技術開発の重要性も世界中で広く認識されている.本稿では,近年我々のチームが開発を続けてきた生理機能の多階層モデリングをサポートするためのソフトウェアPhysioDesignerを用いたモデリング技法の一端を紹介する.