日本薬理学雑誌
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特集 脳における細胞内Ca2+ストアの制御機構と脳疾患の新たな治療戦略
小胞体からのカルシウム放出によるGABA作動性シナプス構造の安定化
丹羽 史尋坂内 博子御子柴 克彦
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2016 年 147 巻 4 号 p. 184-189

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抄録

細胞膜の構成要素である脂質・タンパク質は流体としての性質を持ち,側方拡散運動により自由に動く.自由拡散運動により脂質・タンパク質は均一に分布すると予想されるが,実際の細胞膜では膜分子の分布は一様ではない.シナプス後膜には神経伝達物質受容体が高密度で局在し,効率の良い神経伝達を可能にしている.いかにして神経細胞は,自由拡散運動に逆らって受容体の密度勾配を形成・維持し,シナプス伝達の制御を行っているのか? 我々は,ほ乳類の中枢神経系のGABA作動性シナプスに注目し,「量子ドット1分子イメージング」という技術で細胞膜上の受容体1分子のふるまいを「見る」ことにより取り組んで来た.神経細胞膜上のGABAA受容体の動きを1分子レベルで追跡したところ,小胞体からのIP3誘導カルシウム放出(IICR)が,GABAA受容体を動きにくくし,抑制性シナプスの中でのGABAA受容体の安定性を高めていることが分かった.さらに,GABAA受容体の安定性を高めるためには,IP3受容体に加えて代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)とリン酸化酵素プロテインキナーゼCの活性化が必要であることも明らかになった.これまでの研究で,グルタミン酸はNMDA型グルタミン酸受容体(NMDAR)を活性化し,細胞外から細胞内へ大量のカルシウムを流入させることにより,GABAA受容体を動きやすくすることが知られていた.一方,今回解明したメカニズムでは,同じグルタミン酸とカルシウムというシグナル物質が,mGluRとIP3受容体という全く異なる受容体を介して,逆にGABAA受容体を動きにくくし,安定性を高める働きをしていることが明らかになった.これはグルタミン酸とカルシウムというGABA作動性シナプス(GABAA受容体が機能するシナプス)の制御に関与するシグナル物質が,従来知られていた役割とは正反対の役割も担っていることを示す.

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