2017 年 149 巻 1 号 p. 9-13
医療のめざましい進歩,高齢化社会の到来に伴い,看護師に求められる知識や技術は格段に高まっている.このような社会の要望に応えるべく,看護系大学の新設が進み,間もなく260校に達する勢いである.科学的根拠に基づいた実践能力,問題解決能力育成を目指して4年制教育にしたはずが,看護師不足もあり,看護系大学の教育環境は,臨床実践重視の傾向が顕著になっている.その結果,実習時間が増え,薬理学はじめ基礎科学教育環境は専門学校時代とほとんどかわらないか,むしろ減っている.数年に一度必ずといってよいほど,高濃度の塩化カリウムの静脈注射やインスリンの筋肉内注射など看護師による医療事故が起こり,教育機関や医療機関で努力はされていると思われるが,現実,これらの医療事故は,看護師の基礎科学教育の知識の欠如といっても過言ではない.このように,看護師による薬物関連事故が後を絶たないことを憂いながらも,薬理学を選択制にしている大学さえある.薬物治療に強い看護師育成のためには,正常な機能を営む生体のメカニズム,疾病の成り立ち,薬のもつ多様な作用とその機序の理解を徹底的に学習させるとともに,関連情報を繋げられるような教育が必要である.多くの看護系大学の薬理学講義のコマ数は15~16コマで,この時間では薬の主作用,副作用を教えるのが精一杯であろう.講義時間を増やすことが緊急の課題である.医療の基盤をなす基礎科学系教育の充実こそが薬物治療,実践に強い看護師育成につながるのだから.看護教育が4年制にシフトし20年以上経ち,看護系大学が増加し続ける今でも薬理学教育を医学部や薬学部等,他学部に依頼しているのが現状である.他学部出身者と同等かそれ以上の能力を持つことが前提であるが,そろそろ看護出身者の中から薬理学教育・研究を担当できる人材を育て,育ちつつある人材を受け入れる看護基礎科学教員のポジションの確保(専任の基礎科学担当教員を配置している看護系大学は極めて少ない),取り組みが看護に求められる課題でもある.