日本薬理学雑誌
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特集:n-3系脂肪酸の新たなる生理・薬理作用の探索と将来展望
時間栄養学とn-3系脂肪酸
柴田 重信古谷 彰子
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2018 年 151 巻 1 号 p. 34-40

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抄録

哺乳類において1997年に初めて体内時計遺伝子ClockPeriodが見出され,体内時計の分子基盤を追及する研究が盛んに行われ続けている.全ての生物のリズム現象を調べる学問として「時間生物学」が生まれるとともに,薬物の吸収,分布,代謝,排泄に体内時計が関わることから「時間薬理学」という学問領域が台頭してきた.薬と同様に,栄養の吸収,代謝などには体内時計が深く関わる可能性があるため,「薬」を「食品・栄養」に置き換え,体内時計との関係を研究する「時間栄養学」の領域が確立されている.ヒトを含む動物では,体内時計を24時間に合わせるために外界の光刺激に合わせて体内時計を同調させるリセット機構をもつ.最近の研究において,繰り返しの給餌刺激で形成される末梢臓器の体内時計のリセット効果は,光刺激による視交叉上核を介さないことも明らかになってきており,時間栄養学の研究の発展は著しい.肝臓の体内時計の位相変動作用は食餌内容の血糖上昇指数が高く,インシュリンを分泌しやすいほどリセットしやすいことがわかっている.一方,近年様々な疾患予防の観点から脂質の摂取が見直されている.その中でもn-3系脂肪酸は抗肥満をはじめとする様々な疾患に関わり,体内時計が関与する疾患との相関がみられている.筆者らはn-3系脂肪酸を豊富に含む魚油が,肝臓時計に位相変動作用を引き起こすことを明らかにした.魚油は大腸でGPR120レセプターを介するGLP-1分泌を通してグルコース濃度が上昇,さらにインシュリン分泌を強化することで体内時計の同調機構が確立することもわかっている.また,飽和脂肪酸で見られた体内時計の乱れや肥満に関わる炎症反応がDHAで予防されるほか,魚油の摂取時刻違いにより血中EPA・DHA濃度が変わるなどの知見も明らかとなり,今後さらなる発展が期待されている.

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