日本薬理学雑誌
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特集:革新的心不全治療戦略創出を指向した心機能制御機構の新たな展開
心機能制御におけるmRNA poly(A)分解制御の新しい生理的意義
久場 敬司
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2018 年 151 巻 3 号 p. 94-99

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抄録

心不全のシグナル伝達における転写,エピゲノムなどmRNA合成の制御機構について多くの知見が蓄積されてきた一方で,mRNA分解などmRNA代謝制御の解析は未だ十分とはいえない.CCR4-NOT複合体は酵母からヒトまで保存されたタンパク質複合体であり,遺伝子発現調節因子として転写調節,mRNA分解,タンパク質修飾など多彩な機能を持つ.近年,CCR4-NOTが発生,細胞分化や癌,炎症に寄与することが報告されているが,私達はCCR4-NOT複合体を新規の心機能調節因子として単離した.最近CCR4-NOT複合体のmRNA poly(A)鎖の分解活性が心臓の恒常性維持に重要であることを解明し,RNA分解の新しい生物学的意義を見出した.Cnot3はAtg7 mRNAに結合し,mRNAポリA鎖の分解,翻訳抑制を介してp53誘導性の心筋細胞死を阻止する.興味深いことに,poly(A)鎖の分解不全の状態では,Atg7がp53と結合し核内で協調的にp53標的の細胞死遺伝子の発現を誘導することが分かった.さらに,mRNAの分解を介したエネルギー代謝制御によっても心筋の恒常性維持に寄与することも明らかになりつつある.mRNAのpoly(A)鎖分解は,心臓のエネルギー代謝,細胞死のコントロールなど心機能調節にかかわる遺伝子発現制御の新たな制御相であることが考えられた.

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