日本薬理学雑誌
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151 巻, 3 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
特集:革新的心不全治療戦略創出を指向した心機能制御機構の新たな展開
  • 久場 敬司
    2018 年 151 巻 3 号 p. 94-99
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/10
    ジャーナル フリー

    心不全のシグナル伝達における転写,エピゲノムなどmRNA合成の制御機構について多くの知見が蓄積されてきた一方で,mRNA分解などmRNA代謝制御の解析は未だ十分とはいえない.CCR4-NOT複合体は酵母からヒトまで保存されたタンパク質複合体であり,遺伝子発現調節因子として転写調節,mRNA分解,タンパク質修飾など多彩な機能を持つ.近年,CCR4-NOTが発生,細胞分化や癌,炎症に寄与することが報告されているが,私達はCCR4-NOT複合体を新規の心機能調節因子として単離した.最近CCR4-NOT複合体のmRNA poly(A)鎖の分解活性が心臓の恒常性維持に重要であることを解明し,RNA分解の新しい生物学的意義を見出した.Cnot3はAtg7 mRNAに結合し,mRNAポリA鎖の分解,翻訳抑制を介してp53誘導性の心筋細胞死を阻止する.興味深いことに,poly(A)鎖の分解不全の状態では,Atg7がp53と結合し核内で協調的にp53標的の細胞死遺伝子の発現を誘導することが分かった.さらに,mRNAの分解を介したエネルギー代謝制御によっても心筋の恒常性維持に寄与することも明らかになりつつある.mRNAのpoly(A)鎖分解は,心臓のエネルギー代謝,細胞死のコントロールなど心機能調節にかかわる遺伝子発現制御の新たな制御相であることが考えられた.

  • 前嶋 康浩
    2018 年 151 巻 3 号 p. 100-105
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/10
    ジャーナル フリー

    心機能の維持にはオートファジーが最適なレベルに保たれていることが欠かせないが,その詳しい分子機序についてはいまだ解明されていない.私たちは,アポトーシスを誘導するキナーゼであるMst1にはオートファジーを阻害してタンパク質の品質管理システム機構を負に制御する機能があることを発見した.ストレスにより活性化されたMst1は心筋細胞においてオートファゴソームの形成を抑制し,p62の集積とアグリソームの蓄積を促進することや,Mst1はBeclin1のBH3ドメインにあるThr108をリン酸化し,Beclin1とBcl-2またはBcl-xLとの結合を強化してBeclin1のホモ二量体を安定化させることを見出した.その結果,Vps34複合体IのPI3キナーゼ活性が抑制され,オートファゴソームの形成が阻害されることを見いだした.実際に,心筋梗塞モデルマウスや拡張型心筋症患者における不全心筋において,心筋内のMst1活性が上昇してオートファジーを抑制し,心筋障害を惹起していることを示唆する所見が観察された.この他にもオートファジーが心保護効果を発揮する分子機序が次々と明らかになってきており,オートファジーによる心保護作用を活性化させる戦略は心不全に対する新規の薬理学的な治療標的として有望であると考えられる.

  • 岡田 宗善, 山脇 英之
    2018 年 151 巻 3 号 p. 106-110
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/10
    ジャーナル フリー

    細胞外マトリックス(extracellular matrix:ECM)は組織構造の維持だけでなく周辺細胞機能の調節も担う組織形成に欠かせない高分子群である.近年,ECM分解断片群「matricryptins」が産生源のECMとは異なる生理活性を持つ新たな内因性生理活性因子として数多く同定されている.なかでも基底膜由来matricryptinsの多くは抗血管新生作用や抗腫瘍作用を有しており,抗腫瘍薬としての応用を目指した研究が広くなされている.一方,幾つかの心疾患モデルの心臓組織や心疾患患者の血中で基底膜由来matricryptins発現が変動するという報告があり,心疾患の発症・進展においても基底膜由来matricryptinsが何らかの役割を担う可能性が示唆されている.本稿では当研究室がこれまでに明らかにしてきた心臓における作用を中心に,心不全治療の新規標的因子としての基底膜由来matricryptinsの可能性を紹介したい.

  • 鈴木 登紀子, 酒井 麻里, 山下 重幸, 冨田 賢吾, 服部 裕一
    2018 年 151 巻 3 号 p. 111-116
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/10
    ジャーナル フリー

    敗血症は,高齢者人口の増加,悪性腫瘍や移植時の化学療法などによる免疫機能の低下,多剤耐性菌の出現などにより,症例数は増加の一途をたどり,現在においてもなお高い死亡率を有している.敗血症の定義は,これまで「感染によって引き起こされた全身性炎症反応症候群」とされてきたが,2016年になって「感染に対する制御不能な宿主反応による生命に関わる臓器不全」として15年ぶりに改訂された.新しい定義における「臓器不全」には,急性肺傷害,播種性血管内凝固,脳症,肝障害,腎障害に加えて,心機能障害も含まれている.心機能障害により酸素の需要・供給のバランスが損なわれ,多臓器不全の進展につながることから,心機能障害の有無は,敗血症の予後に非常に重要である.実際,敗血症患者で心機能障害が存在した場合は,非常に高い死亡率に関係すると報告されている.国際敗血症ガイドラインで,敗血症性ショックにおいて推奨されている強心薬はドブタミンであるが,その臨床成績には限界が指摘されている.本稿では,敗血症性心機能障害について,これまで報告されてきた病態生理学的メカニズムについて概説し,ドブタミンに替わる新たな強心薬の治療効果の可能性について考察する.

創薬シリーズ(8) 創薬研究の新潮流(20)
  • 金子 健彦
    2018 年 151 巻 3 号 p. 117-121
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/10
    ジャーナル フリー

    サンバイオ株式会社は現在,再生細胞薬SB623の開発を行っている.このSB623には神経栄養因子や成長因子を分泌する働きがあり,脳の虚血や外傷等による損傷後の神経修復に寄与できると考えられる.SB623の安全性および有効性を評価するため,18例の慢性期脳梗塞患者を対象とした第Ⅰ/Ⅱa相臨床試験を米国にて実施した.移植1年後までの効果を評価したところ,European Stroke Scale,National Institute of Health Stroke Scale,Fugl-Meyer Assessmentのいずれにおいても有意な機能改善が認められた.安全性においても,SB623に起因する副作用や重篤な有害事象は認められなかった.これらの結果から,SB623は慢性期脳梗塞に対し,安全かつ有効であることが示唆された.現在は米国および日本で臨床試験を実施しており,特に日本では再生医療等製品に対する新たな枠組みの中で,いち早く患者様に届けられるよう,臨床開発を加速させている.

新薬紹介総説
  • 呂 時空, 中山 直樹, 阿知和 宏行, 大津 智子
    2018 年 151 巻 3 号 p. 122-129
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/10
    ジャーナル フリー

    ロミデプシン[商品名:イストダックス®点滴静注用10 mg]は,ヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase:HDAC)の阻害を特徴とする新規の抗腫瘍薬である.ロミデプシンはin vitroでHDAC酵素クラスⅠを強力に阻害し,in vivoでもヒト腫瘍細胞株の異種移植モデルにおいて強い抗腫瘍効果を示した.初期臨床試験でT細胞リンパ腫に対して有効例が認められたことから,皮膚T細胞リンパ腫(cutaneous T-cell lymphoma:CTCL)患者または末梢性T細胞リンパ腫(peripheral T-cell lymphoma:PTCL)患者を対象に海外多施設第Ⅱ相試験が実施され,CTCL及びPTCLの治療薬として米国等で承認された.その後,国内第Ⅰ/Ⅱ相試験を計画し,第Ⅰ相期では,再発または難治性の日本人PTCL患者またはCTCL患者を対象に1サイクルを28日間として,ロミデプシン9または14 mg/m2を各サイクルの1,8,15日目に4時間かけて点滴静注し,忍容性を検討した結果,第Ⅱ相期の推奨用量を海外と同一用量である14 mg/m2に決定した.第Ⅱ相期では,再発または難治性の日本人PTCL患者40名を対象に,第Ⅰ相期で決定した推奨用量でロミデプシンの有効性と安全性を検討した結果,有効性の主要解析対象集団40名中17名(42.5%)に奏効が確認された.安全性解析対象集団50名における主なグレード3以上の有害事象は「リンパ球減少症」(37名,74.0%),「好中球減少症」(27名,54.0%),「白血球減少症」(23名,46.0%),「血小板減少症」(19名,38.0%)であったが,安全性プロファイルは忍容可能と考えられた.これらの結果を受け,ロミデプシンは再発または難治性のPTCLの治療薬として2017年7月に国内で承認された.

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