2018 年 152 巻 2 号 p. 90-93
小脳のプルキンエ細胞は協調運動や運動記憶において重要な働きをしている.即ち,協調運動や運動記憶には,プルキンエ細胞において生じる長期抑制(LTD:long term depression)やプルキンエ細胞の形態が重要であることが知られている.これらLTDやプルキンエ細胞の形態維持には,プロテインキナーゼC(PKC)が関与している.一方,ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)は,PKC を活性化するジアシルグリセロール(DG)をリン酸化し,ホスファチジン酸に変換する.このことから,DGKγも小脳が司る協調運動や運動記憶において重要な働きをしていると推測されるが,その詳細については全く不明であった.そこで,我々はDGKγ KOマウスを作製し,そのLTDやプルキンエ細胞の形態,さらには協調運動や運動記憶を調べた.その結果,DGKγが小脳LTDやプルキンエ細胞の形態維持に重要であり,DGKγ KOマウスは協調運動障害を示すことが明らかになった.また,プルキンエ細胞の形態異常に関しては,PKCγの活性化が関与していることも明らかになった.これらの事実は,小脳のLTDやプルキンエ細胞の形態,ひいては協調運動において,PKC-DGKが関与するDGシグナリングが重要であり,PKCやDGKは協調運動障害や運動記憶障害の創薬ターゲットとなる可能性を示唆していた.