日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
特集:小脳神経細胞における細胞内情報伝達と創薬
ホスホチロシンアダプターShcの脳における機能的役割
柿澤 昌
著者情報
ジャーナル フリー

2018 年 152 巻 2 号 p. 84-89

詳細
抄録

アダプター分子(アダプタータンパク質)は,細胞内情報伝達のシグナルフローにおいて重要な役割を担うとされる分子群の一つである.Shcファミリー分子は,その名称(Src homology and collagen homology)の通り,Srcホモロジードメイン(SH2)とコラーゲンホモロジードメイン(CH1,CH2)を分子内に持つアダプター分子の1群であり,脊椎動物では4種類(ShcA-D)のサブタイプが同定されている.これらの内,ShcAとShcCには長鎖型と短鎖型のアイソフォームが存在する.ShcB,ShcDでは長鎖型のアイソフォーム1種類のみであるが,全てのアイソフォームは,PTB領域-CH1領域-SH2領域から成る共通構造を有する.さらに長鎖型はPTB領域よりもN末端側にCH2領域を有する.Shcファミリー分子は,PTB領域,SH2領域にて他分子のホスホチロシンを認識して結合する一方で,CH1領域中の全アイソフォームを通じて保存されているチロシンがリン酸化を受けると,アダプター分子の一種Grb2のSH2領域に結合する.この様な性質によりShcファミリー分子は,ホスホチロシンを介して様々な分子をリクルートし,リン酸化チロシンシグナル系で重要な機能を担うと考えられている.脳ではShcAは胎生期には広く発現が見られるが出生までに発現レベルが低下し,成体では脳室下帯など神経新生が起こる部位のみで発現が見られる.一方,ShcB,C,Dは,それぞれ成体脳の様々な部位で特徴的な発現分布を示す.これまでに,各サブタイプの単独ノックアウトおよびBとCのダブルノックアウトマウスの表現型解析等により,Shcファミリー分子の神経細胞の増殖・保護,あるいはシナプス可塑性ひいては記憶学習への関与が示唆されているが,その中にはサブタイプ間の機能重複を示すものもある.今後,多重ノックアウトマウスの解析が進むことで,Shcファミリー分子の脳における機能的役割に対する理解が深まることが期待される.

著者関連情報
© 2018 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top