日本薬理学雑誌
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総説
心的外傷後ストレス症候群(PTSD)の神経機序と治療戦略
福永 浩司矢吹 悌高畑 伊吹松尾 和哉
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2018 年 152 巻 4 号 p. 194-201

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抄録

心的外傷後ストレス症候群(PTSD:post traumatic stress disorders)は戦争体験,交通事故,自然災害,性被害など深刻なイベントにより引き起こされる.わが国の生涯有病率は1.3%と報告されている.PTSDでは文脈記憶への過剰反応,恐怖記憶消去系の障害に加えて,軽度の認知機能,注意力,学習障害が見られる.ヒトや動物実験では扁桃体,前頭前野,海馬を含む情動・恐怖の神経回路の感受性亢進が関わる.しかし,PTSDのメカニズムは不明であり,根本治療薬もない.最近,オメガ3(ω3)多価不飽和脂肪酸の摂取が自動車事故や東北大震災後のPTSD症状を軽減することが報告されている.脳型脂肪酸結合タンパク質(FABP7)の遺伝子欠損マウスではPTSD様の不安行動と恐怖記憶の固定が亢進される.私達はFABP3欠損マウスにおいて恐怖記憶消去系が障害されること,多動と認知機能障害がみられPTSD様症状を呈すること見出した.さらに,睡眠障害治療薬でメラトニン受容体作用薬であるラメルテオンの経口投与がFABP3欠損マウスのPTSD様行動を改善することを見出した.FABP3欠損マウスでは前帯状回皮質(ACC)のCa2+/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)の活性が低下していた.逆に扁桃体基底外側部(BLA)のCaMKII活性は上昇した.CaMKII活性化と相関して扁桃体基底外側部での恐怖条件に伴うc-Fosタンパク質の発現は著しく亢進した.これらの反応もラメルテオンの慢性投与で改善された.これらの知見から,ACCの機能低下による扁桃体の過剰興奮がPTSDの発現に関わること,睡眠障害治療薬ラメルテオンはPTSD症状の治療薬としての臨床応用が期待できる.

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