細胞外表層pH環境,特に細胞膜近傍の微小酸性領域は様々な生命現象に関与している.しかし,その時空間的な広がりや特性,機能的意義の解析において有用な,汎用性の高い蛍光イメージングプローブは限られている.筆者らは,細胞表面工学の分野で既に合成されていた,蛍光色素FITC(フルオロセインイソチオシアネート)を結合させたPEG結合リン脂質(FITC-PEG-lipid)を細胞膜アンカー型pHプローブとして用いることで,in vitroの蛍光レシオイメージング解析で細胞表面近傍のpHを計測する方法を確立した.FITC-PEG-lipidは,そのリン脂質部分を介して自発的に細胞膜脂質二重層の単外層膜(outer leaflet)に挿入されるため,細胞標識が非常に迅速かつ簡便におこなえる.また,親水性のPEGの効果により,エンドサイトーシスによる細胞内への取り込みが起こりにくく,細胞表面に数時間は安定に保持される.蛍光色素FITCにはpH依存性があり,特に中性から弱酸性領域で,450 nm付近と490 nm付近の励起によって得られる蛍光レシオ値が大きく変化し,且つpHに応じて固有の値をとる.実際に哺乳類培養細胞を用いて実施したレシオイメージング解析では,pH 5.0~7.5の範囲でpHに応答した蛍光レシオ値の変化が認められた.同法を用いることで,蛍光レシオ値の変曲点付近である弱酸性pH(pH 6.0付近)では,pHユニット0.1の違いも検出可能である.またこの蛍光レシオ値の変化は可逆的であり,還流条件下のライブイメージングにおいて,細胞表面のpH変化を経時的に可視化できた.以上の結果より,FITC-PEG-lipidの細胞膜アンカー型蛍光pHプローブとしての有用性が示された.今後,PEG結合リン脂質を基本骨格とすることで,様々なインジケーターを細胞膜表面に選択的に配置させることも可能になると考えられる.pHに限らず,細胞膜と細胞外領域の間に存在する生体界面の環境にアプローチするための,種々のプローブの開発に繋がることが期待される.