日本薬理学雑誌
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特集:最先端プローブによる細胞外微小環境のシグナル計測
シアル酸蛍光ナノプローブを用いた胃プロトンポンプのネガティブフィードバック機構の可視化
藤井 拓人清水 貴浩久代 京一郎竹島 浩高井 まどか酒井 秀紀
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2019 年 153 巻 6 号 p. 261-266

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抄録

胃酸分泌細胞において胃プロトンポンプ(H,K-ATPase)は,胃酸(HCl)のプロトン(H)分泌を担っており,逆流性食道炎や胃潰瘍など酸関連疾患の重要な創薬標的である.H,K-ATPaseは触媒鎖でイオン輸送機能を持つαサブユニット(αHK)と糖タンパク質で補助サブユニットのβサブユニット(βHK)のヘテロ二量体で形成されている.これまでβHKの糖鎖は,αHKの原形質膜へのトラフィッキングおよび機能発現に必須であることが報告されている.通常,糖鎖末端にはシアル酸が結合しており,免疫や細胞の分化など生理的に重要な役割を果たしている.最近我々は,生体適合性に優れたポリマーをベースとする蛍光ナノ粒子にレクチンを結合させた新規のシアル酸蛍光ナノプローブを用いて,βHK糖鎖末端のシアル酸修飾の動態を初めて捉えることに成功した.H,K-ATPase発現細胞,ラットの胃粘膜組織および初代培養胃酸分泌細胞のシアル酸イメージングにおいて,胃内pH環境によりβHK糖鎖のシアル化/脱シアル化が制御されており,酸分泌抑制薬による胃内pHの上昇によりβHKがシアル化されることが示唆された.また,βHKの脱シアル化処理により,αHKの酵素活性が減少することから,βHKのシアル酸修飾がαHKのポンプ機能を調節していることが示唆された.従って,H,K-ATPaseには自身のH分泌による胃内酸性化によりβHKが脱シアル化されαHKのポンプ機能が低下するというネガティブフィードバック機構が存在する可能性が明らかとなった.本プローブは,細胞外微小空間においてシアル酸が関与する様々な生理機能の可視化に応用可能であると考えられる.

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