2019 年 153 巻 6 号 p. 267-272
マイクロスケールの微小電極を利用し,細胞が放出・消費する化学物質の濃度プロファイルを2次元の電流イメージとして取得する走査型電気化学顕微鏡(SECM)は,非染色・非侵襲計測が可能であり,細胞の代謝物や細胞により消費される酸素などの計測に大変有効である.我々は,このSECMの解像度の向上と単一細胞計測への応用を行った.具体的には,ナノスケールの電極の簡便・迅速な作製手法の開発と,細胞表面のナノスケールの凹凸を非接触・非標識で計測可能な走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)の融合技術の開発を行うことで,SECMの解像度の飛躍的向上とともに,化学物質の濃度プロファイルと細胞表面形状の同時イメージングを実現した.本手法を用いて,ラット副腎褐色細胞腫(PC12)細胞からの神経伝達物質の放出を計測することに成功した.さらに,ナノスケールの電極の開発により,細胞内に電極を挿入することが可能となり,細胞内の活性酸素種(ROS)の計測にも成功した.