2019 年 154 巻 2 号 p. 61-65
慢性肝疾患(CLD)は進行性の難治性疾患であり,その病因の一つである非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は生活習慣病を基盤として発症する肝疾患であり,肝硬変や肝がんの最も重要な原疾患になりつつある.鉄は生物に必須の微量栄養素で,生体内で排泄機構を持たないため,ひとたび鉄が過量になると過剰鉄は肝臓,心臓,内分泌器官などに蓄積し,酸化ストレスを介して臓器・組織の傷害や機能不全を惹起する.ヒトCLDにおいて鉄過剰は少なからず認められる所見でNAFLD患者の約1/3に肝臓の鉄蓄積が認められる.非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)患者においても,肝臓の鉄蓄積と組織学的重症度の増加に正の相関があることが報告され,鉄過剰はNASHの病態進展に寄与している可能性がある.ラットの高脂肪・鉄過剰食長期給餌実験モデルにおいて,高脂肪食の単独給餌によってヒトNASHに類似したアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)優位な肝逸脱酵素の上昇を伴う肝実質の炎症が経時的に認められるが,高脂肪・鉄過剰食の給餌によって炎症性サイトカインの発現上昇を伴う炎症の増悪が示される.また,この高脂肪食・鉄過剰食給餌群の肝臓では,病変部のクッパー細胞やマクロファージに強い鉄沈着がみられ,これらの細胞への鉄蓄積によってNASH様炎症が増悪する可能性が示唆された.一方で,肝毒性物質であるチオアセトアミド(TAA)の反復投与によるラット肝硬変モデルでは,TAA単独投与群にみられる肝線維化・肝硬変の進展が,TAA・鉄過剰食投与群において著しく抑制される.すなわち,ある種の条件下では,鉄過剰は肝疾患に対して促進的にも抑制的にも働きうると考えられる.本論文では,NAFLD/NASHの発現・進展に関わる鉄過剰の役割について,最新の知見を交えて紹介したい.