日本薬理学雑誌
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特集:硫化水素をはじめとした生理活性イオウ研究の新展開
硫化水素産生を介したD-システインの小脳保護薬としての有用性
関 貴弘
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2019 年 154 巻 3 号 p. 133-137

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抄録

硫化水素はタンパク質の機能変化や抗酸化能増大を引き起こすシグナル分子として最近注目を集めている.また,神経保護作用を有するため,神経保護薬としての応用も期待されている.硫化水素は生体内でL-システインを原料に生合成されるが,L-システイン神経障害性を有するため,神経保護薬としての応用は困難である.一方,2013年に新たにD-システインから硫化水素を生合成する経路が同定された.この経路に含まれるD-amino acid oxidase(DAO)は脳の中では特に小脳に高発現しており,D-システインの経口投与で小脳選択的に硫化水素が産生されること,小脳初代培養神経細胞に対してD-システインはL-システインよりも強い保護作用を示すことが報告された.小脳神経の一つであるプルキンエ細胞は小脳皮質からの唯一の出力細胞であり,小脳機能において重要な役割を果たす.実際に,脊髄小脳変性症などの多くの小脳失調では小脳プルキンエ細胞の変性や樹状突起の縮小などが共通に観察される.筆者はD-システインが小脳プルキンエ細胞の保護薬となる可能性を検証するため,D-システインが小脳プルキンエ細胞に及ぼす影響を初代培養小脳細胞を用いて解析した.L-システインは高濃度でプルキンエ細胞の細胞死を誘導し,樹状突起発達を抑制した.一方で,D-システインはプルキンエ細胞や顆粒細胞の生存には影響せず,プルキンエ細胞の樹状突起発達を促進した.この樹状突起発達促進効果はDAO阻害薬の同時処置で消失し,硫化水素ドナーの処置で再現されることから,D-システインは硫化水素産生を介してプルキンエ細胞樹状突起発達を促進することが示唆された.以上の知見から,D-システインはプルキンエ細胞樹状突起発達低下を伴う小脳失調に対する保護薬として有用であることが期待できる.

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