日本薬理学雑誌
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特集:イオンチャネル・トランスポーターを標的としたがん創薬研究の新展開
消化管におけるtransient receptor potential vanilloid 4の生理機能と病態における役割
松本 健次郎加藤 伸一
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2019 年 154 巻 3 号 p. 92-96

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抄録

温度感受性transient receptor potential vanilloid 4(TRPV4)は27~35°Cの温度だけでなく,機械,化学的刺激,カンナビノイドやアラキドン酸代謝物などにより活性化する非選択性陽イオンチャネルである.本稿では,消化管におけるTRPV4の局在と病態における変化とその役割について概説した.免疫組織学的検討において,TRPV4はC57BL/6マウスの消化管に広く発現していることを観察した,特に舌において顕著であった.TRPV4の発現は,舌においてはsonic hedgehog陽性の味蕾前駆細胞(Ⅳ型)に,一方,食道,胃,小腸,大腸では主に上皮細胞に認められた.TRPV4はⅢ型味細胞への分化および増殖を制御することで,酸味の感受性に関与していることが明らかになった.デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘起潰瘍性大腸炎およびアゾキシメタン(AOM)/DSS誘起大腸炎関連がんモデルにおいて,大腸炎の程度,腫瘍数および死亡率は,いずれもTRPV4ノックアウトマウスでは有意に抑制された.TRPV4発現は,大腸炎モデルでは血管内皮に,また大腸炎関連がんモデルにおいては骨髄由来マクロファージおよび新生血管に認められた.大腸炎モデルにおいて,血管内皮に発現増大したTRPV4はJNKシグナルの活性化を介してVE-cadherin発現を有意に低下させることで血管透過性を増大し,大腸炎症の悪化に関与することが示唆された.また大腸炎関連がんモデルでは,骨髄由来マクロファージに発現したTRPV4は炎症性サイトカインTNF-αおよびケモカインCXCL2の発現増大に,また新生血管上に発現したTRPV4は血管内皮細胞の増大と遊走の促進に関与していることが明らかになった.以上より,TRPV4は,酸味の受容,大腸炎の病態および大腸炎関連がんの発生に関与していることが判明した.

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