日本薬理学雑誌
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特集:網膜変性疾患や視覚障害を標的とした新規治療戦略を目指して
iPS細胞由来網膜シートを用いた網膜変性に対する再生治療
秋葉 龍太朗松山 オジョス 武高橋 政代万代 道子
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2020 年 155 巻 2 号 p. 93-98

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抄録

網膜色素変性症(RP)は,多様な遺伝子変異を原因として光受容体である視細胞が徐々に変性し視機能が低下していく遺伝性網膜変性疾患である.現時点でRPに対する確立された治療法はなく,日本においてはRPが失明原因の2位である.過去には胎児網膜をRP患者の網膜下に移植する臨床研究が海外で行われたが,その有効性について明確な結論は出ておらず,胎児からの組織を用いる治療は倫理的な問題により普及には至らなかった.2006年にiPS細胞が登場し,そしてiPS細胞からの立体網膜組織の誘導が可能になったことで,倫理的な問題を生じることなく網膜組織の移植治療も現実的なものとなった.我々はこれまで,マウス幹細胞ES/iPS細胞由来の網膜組織を末期網膜変性モデルマウスの網膜下に移植すると組織が視細胞層を形成して生着し,視細胞が経時的にホスト網膜とシナプスを形成することを明らかにした.また移植後にはホスト側の細胞で光応答性が回復すること,また行動解析によって光認識の回復が認められることを報告した.またサルに光凝固を行った網膜変性モデルにヒトiPS細胞由来の網膜組織を移植すると最大で2年以上の長期生存が確認され,良好な視細胞の生着と共に,視野検査による機能回復も示唆されている.これらのProof of Conceptをもとに,現在iPS細胞由来網膜組織を用いた臨床研究の準備を進めている.

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