理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

一般演題 ポスター
通所リハビリテーションでの要支援・要介護利用者における転倒に関連する要因
上野 雅子浅野 信一杉本 諭
著者情報
キーワード: 転倒, 身体機能, 転倒恐怖感
会議録・要旨集 フリー

p. Eb0626

詳細
抄録
【はじめに、目的】 通所リハビリテーション(以下通所リハ)での個別理学療法の目的は、心身及び生活機能の維持・回復であり、在宅生活を継続しながら日常生活での機能低下を予防していくことが重要である。これまでにも転倒は身体機能低下、更には活動範囲の制限を招来する原因の1つであると報告されている。したがって、転倒または再転倒を予防するための理学療法を考慮することが重要である。今回我々は、過去1年間の転倒経験の有無と身体機能の変化を調査し、転倒を引き起こす要因について検討した。【方法】 通所リハを利用している高齢者のうち、少なくとも屋内歩行が自立し、過去1年間以上通所リハを利用している者39名を本研究の対象とした。性別は男性18名、女性21名、平均年齢は76.82±10.29歳、要介護区分の内訳は、要支援2:4名、要介護1:9名、要介護2:16名、要介護3:9名、要介護4:1名であった。過去1年間の転倒経験に関してはアンケート調査、身体機能についてはカルテより後方視的に調査し、最近行った評価(評価2)と評価2より1年前に行った評価(評価1)の2時点のデータを用いた。身体機能の評価項目は、運動機能面としてTimed up and go test(TUG)、10m歩行時間(10m歩行)、5m後方歩行時間(後方歩行)、心身機能面として転倒恐怖感と関連の高い自己効力感を示すFall Efficacy Scale (FES)を用いた。分析方法は、まず対象を評価1の実施以降の転倒経験の有無により転倒群と非転倒群に分け、各評価項目についてt検定を用いて群間比較した。次に1年間の身体機能の変化について、対応のあるt検定を用いて群別に比較した。統計解析にはSPSS11.5J for Windowsを使用し、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は通所リハ実施にあたり、定期的に行っている評価項目の一部を使用したものであり、評価結果を研究にも利用する旨を事前に対象者に説明し、書面にて同意を得ている。【結果】 転倒群は21名、非転倒群は18名であった。各評価項目の群間比較では、評価1および評価2の何れの時点においても2群間に有意差は見られなかった。1年間の変化についての比較では、転倒群ではTUGが20.55±12.82秒→22.46±15.33秒、10m歩行が19.85±14.27秒→21.95±16.90秒、後方歩行が27.26±21.23秒→30.68±22.95秒と評価2の成績が有意に不良であったが、FESは22.95±5.48点→21.14±4.91点と有意な変化は見られなかった。これに対し非転倒群ではTUGが  20.22±7.84秒→19.42±8.38秒、10m歩行が19.48±9.51秒→17.87±8.14秒、後方歩行が23.86±14.15秒→22.37±10.85秒と1年後においても有意な変化は見られなかったが、FESは26.17±6.60点→21.39±6.61点と有意に低下していた。【考察】 本研究の結果、転倒前の評価項目に両群間で差が見られなかったことから、今回の評価項目では転倒の危険性を予測することは困難であると考えられた。1年間の変化について比較した結果、転倒群では運動機能が低下していたがFESに変化が見られなかったことから、自己の身体能力に対する自己認識が不十分であり、再転倒の可能性が高いことが推察された。これに対し非転倒群では、運動能力が維持されているのにも関わらずFESが低下したことから、1年前に比べて転倒恐怖感に対する意識が強く、転倒への自己防衛力が高いと考えられた。以上より運動機能の維持・向上だけではなく、特に転倒経験のある者に対しては、自身の身体状況の理解や転倒に対する意識づけを重点的に促す事が再転倒の予防に重要であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 在宅生活を継続するためには、継続的に身体機能の低下を予防する事が重要である。本研究の結果、1時点の横断的な比較では転倒経験の有無による違いが見られなかったが、1年間の変化という縦断的な比較では違いが見られた。このように、継続的な評価をもとに転倒を引き起こす要因を検討しその実態を明らかにすることが重要であることが示されたことは理学療法学研究として意義が高いと考えられる。
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top