日本薬理学雑誌
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特集:網膜変性疾患や視覚障害を標的とした新規治療戦略を目指して
空間視知覚と視覚誘導性行動を支える神経回路メカニズム
竹内 遼介小坂田 文隆
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2020 年 155 巻 2 号 p. 99-106

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抄録

動物は感覚器官を通して得た周囲の環境情報を統合し,状況に応じて適切な行動を選択する.特に,私たちヒトを含む哺乳類において視覚は生存に重要であり,多くの行動判断を視覚系から得られる情報に依存している.視覚系が処理する情報量は膨大であるが,我々の脳は並列・階層的な処理によりこの情報を瞬時に処理する.その結果として,我々はいとも簡単に周囲の状況を把握し,次に取るべき行動を絶え間なく選択することができる.このような機能を実現するためには,空間視知覚と運動情報の適切な統合が行われる必要がある.しかし,実際にどのような計算が必要なのか,どの脳領域がその役割を担うのか,未だその全容を直接的に検証した事例は少ない.本稿では主に霊長目で明らかになっている視覚系の解剖学的な構成と,背側視覚経路に関する生理学的および心理物理学的研究について解説する.加えて,げっ歯目を視覚モデル動物として用いた近年のアプローチについても紹介したい.また,人工知能研究は近年急速な発展を遂げているものの,周囲の環境とのインタラクションを担う機能については多くの課題が残されている.したがって,視覚誘導性の行動を担う神経回路機構を明らかにすることは,視覚認知障害の新規治療戦略の創出,精神疾患や神経疾患の神経回路病態の理解に加えて,将来のロボティクスの発展にも重要な示唆を与えることが期待される.

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