日本薬理学雑誌
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特集:筋のホメオスタシスとその異常による疾患
骨格筋の恒常性維持に対する機能性食品素材の役割
山澤 德志子山田 静雄
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2020 年 155 巻 4 号 p. 236-240

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抄録

高齢者の筋力低下の原因には,加齢に伴う筋減弱を特徴とする病態(サルコペニア)や,あるいは神経支配が消失することによる筋萎縮が知られている.しかしこれらの詳細なメカニズムは不明で病態マーカーもなく,病態類似性について解明されていない点が多い.一方で近年,機能性健康食品が注目されてきている.しかしながら,機能性食品素材には,作用機序が解明されていないものが多くある.機能性食品素材のポリアミンは,納豆などの大豆食品やチーズ等に含まれ,ウィルスから人に至るまで広く存在する生理活性物質で,代表的なものにプトレシン,スペルミジン,スペルミンがある.主として核酸,特にRNAと相互作用することによりタンパク質・核酸合成を促進し,細胞増殖因子として機能する.生体内では,プトレシン↔スペルミジン↔スペルミンと相互変換することにより,ポリアミンとしての至適濃度が厳密に保たれている.我々は,骨格筋量調節に対するポリアミンの作用を調べるために,まずマウス骨格筋幹細胞(C2C12細胞)を用いて,筋芽細胞の増殖,及び多核になる分化過程に対するポリアミンの効果を解析した.骨格筋幹細胞を増殖させた後,分化誘導培地に交換して骨格筋幹細胞から骨格筋細胞へと分化誘導し,核,細胞質を染色して筋管の形成を蛍光顕微鏡で観察し,ポリアミン添加群と対照群で比較した.ポリアミン添加群は分化過程において,多核になる細胞数,および一つの骨格筋細胞に含まれている核の数はどちらも有意に増加した.従って,ポリアミンは骨格筋幹細胞の分化過程の促進及びカルシウムシグナルを促進して筋肥大を起こすことが示唆された.次に生体内での実際の筋肥大過程に対するポリアミンの効果を見るために,マウスの坐骨神経を除去し,その直後からポリアミン投与を開始し,除神経3週間後にCTによる画像撮影を行った.ポリアミン投与群では,対照群に比べて健側の筋肉量が増加することが明らかとなった.

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