日本薬理学雑誌
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特集:新興ウイルス感染症の早期予防・治療を目指して~COVID-19対策から考える~
COVID-19治療薬開発を目指したエコファーマ研究
加藤 百合西山 和宏西村 明幸西田 基宏
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2022 年 157 巻 2 号 p. 119-123

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抄録

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,2019年に中国・武漢で発症が確認されて以来,全世界で猛威を奮っている新興感染症である.有効な治療法は未だ確立されておらず,COVID-19重症化機構の解明,予防・治療法の確立が急務となっている.主な感染経路として,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)表面にあるspikeタンパク質(Sタンパク質)が宿主細胞膜上のSARS-CoV-2ウイルスの認識受容体angiotensin converting enzyme(ACE)2タンパク質と結合し,エンドサイトーシスを介して細胞内に侵入する.COVID-19は肺への重篤な障害が報告されているが,ACE2は肺だけではなく心臓や消化器など様々な組織に発現しているため,細胞間のウイルス感染拡大,つまり感染重症化は肺だけではなく全身の組織でも起こりうる.我々は,COVID-19重症化リスクを増加させる既往症に心疾患が含まれることや,COVID-19後遺症にも心機能障害が含まれることから,心臓でのSARS-CoV-2感染・重症化の機構に着目した.その結果,心臓のACE2受容体がCOVID-19重症化リスク因子と示唆されている様々な環境ストレス曝露によって増加すること,その分子機構として,心筋リモデリングを制御する膜タンパク質複合体(TRPC3-Nox2)形成が関与することを新たに見いだした.さらに,TRPC3-Nox2タンパク質複合体形成を阻害する既承認薬の中から,Sタンパク質曝露によるACE2内在化を抑制する化合物クロミプラミン(三環系抗うつ薬)を同定した.本稿では,心臓におけるTRPC3-Nox2複合体形成を介したACE2受容体の発現制御機構,および人工組換え三量体Sタンパク質を用いたin vitroスクリーニング(偽感染モデル)とその結果について紹介する.

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