近年のビッグデータに関する急速な発展や,画期的な人工知能(artificial intelligence:AI)技術の発展は,医療分野にも大きな変革をもたらしている.製薬会社も,ビッグデータを用いたより短期間で確度の高い創薬研究など,生産性の向上を目指したデジタルトランスフォーメーションを推進しており,AIやアナリティクスを活用したデータ駆動型創薬をアステラス製薬も推進している.ビッグデータの一つにテキストデータがあるが,その中でも生物医学分野の文献データは世界中の研究者たちの英知の結集であり,関心ある分野の最新の知見を得る基となる情報源である.文献データベースには毎年多くの論文が収載されるため全てを読むことはできないが,ニューラルネットワークを基盤とするAI技術は飛躍的な進歩を遂げており,膨大な文献情報を短時間で効率的に処理することができる.創薬研究においては,様々な学術分野の最新,且つ,幅広い知識が必要とされるため,必要な情報を漏れなく取得するためのAI技術を積極的に取り込む必要がある.本稿では,急増する文献データと最新のAI技術を創薬研究に応用する私たちの試みを紹介する.これまでの検索エンジンでは,検索された論文の中から目的の主題を記載している文章を特定して理解するのに膨大な時間を要していたが,私たちは,従来のキーワード検索だけでなく,文章をコンセプトレベルで検索に用いることができ,目的病態メカニズムをもつ疾患が提示されるツールを作成した.実際に活用してみて分かった課題などに関しても併せて紹介する.今後,文献データはますます増加すると想定され,AIによって分析し,求める知見を効率よく得ようとする研究は更に活発になると思われることから,今後の技術の進展への期待と,解くべき課題に関しても考察する.