日本薬理学雑誌
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特集:インスリン・糖尿病研究の新展開:基礎から臨床まで
糖代謝能にみられる概日リズムに対する咀嚼の効果
山仲 勇二郎
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2023 年 158 巻 2 号 p. 165-168

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抄録

生物時計は,バクテリアからヒトに至るまで地球上に生存するすべての生物が獲得した生存戦略である.哺乳類の生物時計機構は,脳内視床下部視交叉上核に存在する中枢時計と視交叉上核外の脳部位および全身の末梢組織に存在する末梢時計からなる階層性多振動体構造から構成される.生物時計の自律振動する分子メカニズムは,時計遺伝子とよばれる一群の遺伝子の転写と翻訳を介する自己制御型のネガティブフィードバックループである.時計遺伝子は,中枢時計である視交叉上核だけでなく末梢組織においても自律振動する概日リズムが確認されており,末梢組織の正常な生理機能との関連が明らかにされている.食後の血糖値上昇に対するインスリン分泌量にも概日リズムが観察される.経口糖負荷試験に対する耐糖能は,朝方に高く夜間に低くなる.耐糖能にみられる概日リズムは,睡眠および概日リズムの同調状態の影響を受けており,臨床においても血糖コントロールにおいても睡眠と概日リズムの調節が重要となる.国内では食事の際によく噛むことが健康にとって重要であることが指摘されている.著者らは,よく噛む=咀嚼の強化が食後の糖代謝能に与える影響が1日のなかで変化するかを健康な成人男子を対象に検討し,朝方の咀嚼の強化が食後のインスリン初期分泌を改善させる効果を持つことを報告した.本総説では,生物時計と糖代謝能,咀嚼の強化が糖代謝能の概日リズムに与える影響について解説する.

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