自閉スペクトラム症(ASD)の背後にある神経機構に関する研究は,その対象も計測のモダリティーも多岐にわたり,今や数えきれないほど発表されている.ASDの名を冠した雑誌も多い.私が主に関わっているヒトMRI領域でも,内側前頭前野や前頭皮質の活動低下とASDの社会性の症状が関係しているとか,ASDと定型発達者(TD)では脳全体にわたる機能的・解剖学的結合の分布に違いがあるなど,さまざまな角度からASDに関する神経生物学的特徴が報告されている.では今更何を足すことができるのか.この総説では,大域的神経遷移ダイナミクスに注目すると「その新しい何か」を見出せるかもしれない,ということを述べたいと思う.具体的には,①エネルギー地形解析というデータ駆動型解析手法を用いると時空間的に高次元で複雑な神経活動時系列データから比較的単純な神経遷移ダイナミクスを抽出することができるということを説明した上で,②その手法を用いるとASDの症状やそのユニークな知性の背後にある特異的な神経動態を同定し,さらには制御できるかもしれないという可能性を提示したいと考えている.最後にはADHDに適用するとどうなるのか,ということも触れてみたい.