日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
持続型LDLコレステロール低下siRNA製剤インクリシランナトリウム注射剤(レクビオ®皮下注300 ‍mgシリンジ)の薬理学的特性及び臨床試験成績
三上 忠世志藤原 由佳理赤堀 みずき富松 直子田槙 ゆう子
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2024 年 159 巻 4 号 p. 254-263

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抄録

インクリシランナトリウム(販売名:レクビオ®皮下注300 ‍mgシリンジ,インクリシランナトリウム300 ‍mgはインクリシラン284 ‍mgに相当する.以下,インクリシランと略す)は,プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)タンパク質をコードするmRNAを標的とした低分子干渉リボ核酸(siRNA)製剤である.本邦では,2023年9月25日に「家族性高コレステロール血症,高コレステロール血症」を効能又は効果として承認を取得した.インクリシランは,センス鎖に結合する3分岐型N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)を介して肝臓に取り込まれ,肝臓のPCSK9 mRNAの分解を促進する.これにより,肝細胞上のLDL受容体の発現は増加し,LDLコレステロール(LDL-C)の取り込みが促進され,血中LDL-C値は低下する.In vitro薬理試験では,インクリシランの肝細胞のPCSK9 mRNA発現量に対する低下効果が認められ,カニクイザルを用いたin vivo薬理試験では血漿中PCSK9及び血清中LDL-Cに対する低下作用が認められた.ハイブリダイゼーション依存的なオフターゲット作用(標的外RNAと相補結合することにより生じる作用)として,臨床上問題となるリスクを生じる可能性は低いと考えられた.国内外の臨床試験において,LDL-Cの目標値未達であった家族性高コレステロール血症患者及び高コレステロール血症患者にインクリシラン300 ‍mgを1日目,90日目,及び以後6ヵ月ごとに投与することにより,LDL-Cは大きく低下し,その効果は長期間持続した.また,インクリシラン投与により,多くの被験者で目標値を達成した.インクリシラン300 ‍mgの忍容性及び安全性に大きな問題はなく,インクリシランは,家族性高コレステロール血症患者及び高コレステロール血症患者に対する新たな治療選択肢になることが期待される.

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